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2015-12-29 06:37

撤去されない慰安婦像問題が最大のアキレス腱に

杉浦 正章  政治評論家
 欧米メディアに「歴史的合意」と報じられたが、その実態は韓国による“やらずぶったくり”の危険を伴うガラス細工の合意ではないだろうか。首相・安倍晋三が大統領・朴槿恵に「心からのおわびと反省の気持ちを表明する」と陳謝し、想定外の10億円を国家予算の中から慰安婦問題で支払うが、その慰安婦問題における最大の象徴である日本大使館前の少女像は撤去されるのだろうか。国際法違反のこの像が撤去されなければ、野党は鬼の首を取ったように通常国会で安倍を責め立てる。「10億円払っても撤去されない」は、夏の国政選挙に向けて絶好の攻撃材料になる可能性が大きく、最も反論しにくい問題として浮上してしまう。まさか、韓国側から慰安婦問題のすべての元凶である「韓国挺身隊問題対策協議会」説得の見通しと確約がないまま、外相・岸田文男が「合意」したとは思われないが、疑問が残る。

 「最終的かつ不可逆的な解決の達成」が、政府の説明であり、確かに合意内容は(1)慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認、今後、互いに非難や批判を控える、(2)日本政府は、当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を傷つけた慰安婦問題の責任を痛感し、安倍晋三首相は心からおわびと反省の気持ちを表明する、(3)韓国政府が元慰安婦を支援する財団を設立し、日本政府の予算で10億円程度を拠出する、までは過去の経緯から見れば画期的であり、よくぞここまで合意出来たと思う。しかし問題は慰安婦像に関して懸念が残ることだ。まず合意では「韓国政府は在韓国日本大使館前の少女像への日本政府の懸念を認知し、適切な解決に努力する」としており、表現があいまいであることだ。

 外相・尹炳世(ユン・ビョンセ)の記者会見における見解でも「関連団体との協議を通じて適切に解決されるよう努力する」と、やはり確約ではない。むしろ努力目標のように感ずる。像を設置した反日団体である挺体協は合意に猛反発しており、撤去する気配は今のところ見られない。韓国政府はもともと少女像を「民間団体が設置したもので政府は関係ない」としているが、国際法を知らないのか。慰安婦像は明らかに外国公館に対する侮辱であり、国際法違反である。そもそも「外交関係に関するウィーン条約」第22条2は「接受国は、公館の安寧の妨害又は公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する」と定めている。政府も2011年12月14日に挺体協が慰安婦像を設置した後、同問題を2012年6月に「ウィーン条約22条2に関わる問題」と批判する答弁書を決定、韓国に抗議している。当然ウイーン条約違反として韓国政府が公権力を行使してでも撤去しなければならない義務がある問題である。

 おそらく岸田と尹の会談では、慰安婦像の問題が取り上げられて、突っ込んだ議論がなされたものと推測される。そして良く解釈すれば、尹が「挺体協を説得するので待って欲しい」と要請、岸田はこれを認めた形で会談を終えた可能性がある。したがって、いつまでと期日を区切った可能性は少ない。さらに岸田が大使館前の少女像に言及したとしても、米国をはじめ世界中に設置され、その数が増加の一途をたどっている慰安婦像の問題を批判したかどうかは疑わしい。この結果、日本側は国内的な問題を抱えることになる。自民党内と野党の攻撃材料になる公算が大きいからだ。もちろん交渉は大局を見なければならないが、もともと野党は大局など見ない。選挙向けの攻撃材料だけがあればよいのだ。それが慰安婦像問題に集中されることは必定だ。なぜなら「首相が謝って10億円払ったのに撤去されない」は国民感情を刺激して、選挙に大きな影響をもたらす可能性がある。

 今回の合意は安全保障上の見地などから言って大局的には正しいが、日韓両国とも国交正常化から50年の今年中に決着という朴槿恵の方針にあおられて、結論を急いだ可能性がある。したがって、ここは政府が来月4日の通常国会前までに、韓国政府が公権力を使ってでも早期に撤去するよう韓国側に申し入れなければなるまい。岸田は「在韓日本大使館の前にある慰安婦少女像について適切な移転が行われるものと認識している」と発言したが、「移転」であってはならない。あくまで「撤去」を主張すべきだろう。慰安婦問題や産経記者起訴問題などで見せてきた韓国政府の姿勢は、まさに国際外交における“マッチポンプ”であり、今後も対日関係を改善して経済的困窮を脱すれば、竹島問題や靖国参拝問題、天皇陛下への謝罪要求問題など国内事情次第でいつまたマッチを擦る方向に転換するか分からない側面がある。「日韓新時代」もいいが、そういう国だと思って、付き合った方が良い。
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