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2016-01-26 08:30

甘利の「辞任なし」なら政権直撃、野党が欣喜雀躍

杉浦 正章  政治評論家
 詰まるところ、野党の欣喜雀躍を一週間で止められるか、半年続けさせて夏の国政選挙で大敗北を喫するか、の選択だ。戦後の閣僚辞任は117人。そのうち吉田内閣は最多の17人の閣僚が辞め、佐藤内閣は10人。その多くがトカゲのしっぽ切りでしのいだ。「安倍長期政権」は単に自民党の願望だけでなく、その支持率から言って国民大半の期待である。この期待を裏切るかどうかの瀬戸際が「甘利事件」である。大局から見た場合、経済再生担当相・甘利明の進退は窮まったかに見える。本人も十分分かっているだろうが、甘利は自ら辞任して「自民党政権」に“寄与”するしか選択肢はあるまい。ここは一刻でも早くその選択をすべき時だ。

 今回の事件を政治的に俯瞰(ふかん)すれば、まず野党を限りなく勢いづけた。これまで外交・経済・安保で、向かうところ敵なしの状況でまい進する政権の追及に、野党は手をこまねいていたというのが実態だ。そこに願ってもなき僥倖が飛び込んで来たのが「甘利事件」だ。それも通常の閣僚をめぐるスキャンダルは「疑惑」の形でスタートするが、今回は最初から「真相」が表に出て、これを突き崩す手段が見当たらないことだ。辛うじて自民党副総裁・高村正彦が「録音されたり、写真を撮られたり、そのわなの上に周到なストーリーが作られている」と分析しているが、そこには「わなにかかったから仕方がない」と、わずかながら甘利に救いの手を差し伸べるかのような姿勢が垣間見える。甘利自身も記者会見で「相手は隠し録音が目的。最初からいろいろな仕掛けを行っている」と述べ、これに同調している。

 しかし「わな」論は事の本質を突いているだろうか。甘利が大臣室と事務所で2回にわたり現金を受け取ったとされる場面はあまりにも生々しく、写真も残っている。それも3年前の2013年から「わな」を仕掛けるつもりで接近したかにも疑問が残る。なぜなら事件の焦点は、1度目に2億2000万円の保証金の取得に成功したあと、さらなるより巨額な補償交渉に向けて、建設会社と甘利の秘書が動き、これが実現しないところから生じた“あつれき”と“内部分裂”にあるように見えるからだ。高村は「わな」説を述べた後、「わなだから、あいまいな記憶で甘利氏が答えていれば、理解してもらえる話ではない。1週間後に記憶にないという話が帰ってくることはあるまい」と突き放した発言もしている。「わな」だけでは抗しきれる話ではないことを承知している証拠だ。「わな」論は、政権側がいかに反撃材料に事欠いているかの証左ではないだろうか。維新の柿沢未途の「わなだと言い張れば、受け取っても不問にできるのか」という反論が利いてしまうのだ。

 火付け役の文春が何か「新事実」として2度目の攻勢をかけるかどうかも注目される。今週号の発売は1月28日だが、第2弾があれば27日にも漏れるのが通常だ。これがとどめを刺すかどうかだ。それでは今後の展開はどうなるのかだが、政権にとって1番いい選択肢は、甘利の自発的閣僚辞任だろう。閣僚を辞任して、政治資金収支報告を修正して、政治資金規正法違反を逃れる選択だ。後は例によって「秘書のやったことは関知しない」で、あっせん利得処罰法違反は秘書にかぶせる方式だ。安倍政権としては、いったん閣僚を辞任してしまえば、関知しない形を整えられる。国交省局長への商品券問題は残るが、大きな論点は辞任と同時に追及の行き場を失う。また安倍の任命責任は問われるが、甘利が閣内にとどまったままの追及とくらべれば天と地の差がある。

 最悪なのは理屈をつけて決着を先延ばしにすることである。これは野党が一番喜ぶ方式だ。なぜなら通常国会の半年間政権追及の材料に不足しないからだ。ことあるごとに「甘利事件」で国会をストップすれば良い。審議は各駅停車となって、予算や法案にも重大な影響が及ぶ。内閣支持率はじり貧となり、夏の国政選挙を直撃する。これでは世論の傾向から言って、安倍が本会議で強調した内政外交にわたる“挑戦”が、国民感情への“挑戦”になってしまう。あまりにも大きなお荷物を抱えたままでは、安倍内閣の身上である軽快なる国会運営は不可能になる。要するに、総理大臣たるもの、私情を捨て去ることが何よりも肝要だと言うことだ。経済再生担当相の代わりなど、自民党にはいくらでもいる。答弁に窮すれば安倍が代わりに答えてカバーすれば良い。それにつけても安倍政権が不祥事による閣僚辞任が多いのはなぜだろうか。長期政権では冒頭述べた吉田の場合が17人中不祥事は1人。佐藤も10人中不祥事は1人。小泉は4人中1人。中曽根内閣、池田内閣は不祥事辞任ゼロだ。それに比べて安倍政権は1次から3次までで8人中6人が不祥事辞任だ。おそらく政治資金規正法の改正やあっせん利得罪の新設、マスコミの風潮などが作用しているものとみられるが、内調などの事前調査が甘いことも原因かも知れない。
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