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2016-02-23 11:39

英国人の根底にあるEU脱退論

山田 禎介  国際問題ジャーナリスト
 かつてベルギーのブリュッセルで欧州連合(EU)報道に関わった筆者に最近「意外、やっぱり」という相克の印象で感じる政治的動きがあった。EUが19日のブリュッセル首脳会議で、英国がEU残留の条件の移民への社会福祉の制限、EU統合深化への英国の適用除外、英金融機関や市場を監督する独自の権利の保持などのEU改革案を全会一致で合意した、というのがそれだ。キャメロン英首相はEU内で特別な地位を得たと宣言、ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏を先頭に高まるEU脱退気運に対し成果を誇示、6月にEU残留か否かの国民投票をやるという。

 それにしても「ロンドン市長もよく言うわ」とも思う。ジョンソン市長の先祖はオスマン帝国の首相。庶民といえるものではないが、”トルコ移民の末裔”ではないか。でもパブなどで英庶民が気勢を上げる、根底にいつもあるEU脱退の「核」、国民気質をジョンソン市長が代弁しているのも事実。わたしはブリュッセル駐在時代にこれに見合うちょっとした集会の空気を体験した。当時所属した本邦メディアにそのエピソードを原稿として送ったが、日本国内ではその空気は理解するのは難しかったのか、あるいはわが筆力が足りなかったのか、その記事内容の紙面掲載はわずかだったが。

 それはブリュッセルに駐在するEU取材欧州記者団年次総会のこと。「面白い会合になるから」と言う英国人助手の勧めで入場してみた。アルコールも入った総会後半は、最大勢力である英国特派員団に牛耳られた。一般的にフランス語が支配的なEUもいまでは世界語たる英語という武器が彼らにあるから、なおさらである。エルガーの行進曲「威風堂々」、愛国歌の「ルール、ブリタニア!(英国よ 世界を支配しろ!)」の大合唱。そのあとは「英国がEUを脱退するとき」だった。日本人の誰もが知っているポピュラーな「聖者の行進(聖者が街にやってくる)」の替え歌だった。

 南部米語の聖者の行進を、ロンドン下町弁(コクニー)に替えて歌を操る英国人記者の大合唱に、原加盟国の誇りはどこへやら仏独の記者たちは、あんぐりに呆然の顔で笑いはなかった。現状北欧には、EU加盟国でも単一通貨ユーロを使わない国がある。また同じくユーロに取って代わらない英ポンドは、米ドルのEU内軍票でしかない、という意見もあるほどだ。米大統領予備選で俗耳に入りやすいトランプ発言に、似て非なるアングロサクソン的大衆の本音が、英国人の根底にあるEU脱退論と言えるのではあるまいか。これが、危機の際でも動じない英国の武器、また伝統的スタンスだろう。
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