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2016-03-03 07:05

安倍のボルテージが三段上がった

杉浦 正章  政治評論家
 予算が年度内成立の流れとなって、首相・安倍晋三の発言のボルテージが「一段」どころか「三段」上がった。その際たるものが「憲法改正を在任中に成し遂げたい」と3月2日に言い切ったことだ。さらに「参院選は自公対民共の対決」と断定、保革決戦を表明した。半世紀以上現役政治記者をやっていれば、選挙を前にした政治家の「闘志」を本能的にひしひしと感ずる感覚が身につくが、安倍から伝わるものは強すぎる。どうも参院選だけでは治まらないような勢いを感ずる。本人は口が裂けてもまだ言う段階ではないが、衆参同日選狙いでなければ感じないような高揚感がある。野党幹部筋によると警戒感を強めた野党は、民主党代表・岡田克也と生活の党代表・小沢一郎が2日夜極秘裏に会談、ダブル選対策を練った。

 この時期の政治家の発言は一字一句見逃してはならない。筆者だけが発信した安倍の「世界経済の大幅な収縮」発言を「消費増税先送りへの新条件」ととらえ、解散に結びつけた見方は、全紙が2日遅れで追いかけて政界に定着した。政局への感性を持って分析すれば、2日の発言も怪しい。自民党内は同日選をにらんで党内各派のすべてが政治資金パーティーを予定しているが、その先頭を切った額賀派のパーティーで「7月に参院選がある。何としてでも勝利して、安定的な基盤のうえに政策を前に進める」と発言したのだ。駆け出し記者は見逃すが、この「7月に参院選」と述べたのが怪しい。これまで7月とつけたことはなかったと思うからだ。参院選は6月でも8月でも可能だが7月と特定したことは、日程上通常国会会期末6月1日の解散があり得ることを意味する。発言でミスしたことのない安倍は、ダブル選を考慮に入れていることなどおくびにも出さないが、注意深く観察すれば心中がぽろりと漏れて出ることがあるのだ。心の片隅にダブルの選択があるから出た言葉だ。

 さらに怪しいのは、冒頭に挙げた「在任中の改憲」発言だ。2018年9月までの任期中に改憲を成し遂げるには、参院でも改憲発議に3分の2が必要であり、それをどう達成するかだ。3分の2議席を達成するには自民、公明、おおさか維新などで78議席が必要だ。2013年には自公だけで76議席を獲得しているから、通常ならまんざら不可能ではないが、今回は野党統一候補に共産党の「2万票」が付く。おまけに今回の参院選は自民党の慢心に「お灸」が据えられかねない要素が山積している。政権選択に関わりない参院選では、有権者が「お灸」の選択をする可能性があるのだ。したがって任期中に改憲をするには、今回の参院選で極めて達成が困難な3分の2を達成しなければならない。しかし、それが出来るかというと至難の業だ。だからダブルで野党共闘を粉砕してしまうことが必要になるのだ。任期中ということは、そういう事を意味する。安倍は事務当局が用意した文書でなく、アドリブで「任期中」を挿入しており、これはダブルもあり得るという気持ちがなくては、なかなか出てこない言葉であろう。閣僚の国会答弁でもこれまで慎重だった環境相・丸川珠代が被ばく線量1㍉・シーベルト発言で開き直るような姿勢に転じており、安倍の意向が働いている可能性が強い。要するに、安倍は完全に「戦闘モード」に入ったのだ。

 こうした中で野党は、かねてから行われるとささやかれていた「岡田・小沢会談」が参院副議長・輿石東を交えて行われた。岡田は維新との合流にあたって生活などとも合流したい意向を表明している。会談で岡田と小沢は、安倍が同日選を狙っている可能性が高いとの見方で一致した。小沢は共産党委員長・志位和夫と最近深いつながりを持つが、その共産党票をいかに野党統一候補に効果的に作用させるかが、具体的選挙区名をあげて話し合われたという。また野党選挙協力の効果が参院選単独ならともかく、安倍がダブルに打って出てきたら雲散霧消しかねない点についても話し合われた。小沢は野党が事前に衆参で詳細な選挙協力の調整をしておけば、ダブルでもしのげる可能性があることを主張したと言われる。民主党内にアレルギー反応が強い小沢のカムバックについては、岡田が認めたのか、「申し訳ない」と断ったのかは、まだ不明である。

 こうして予算成立がせきを切ったかのように、与野党対決のボルテージが上がりつつある。安倍が「自公対民共」の戦いと定義づけたのは、有権者に自公が極左との戦いに臨んでいるとのイメージをもたらすことを狙ったもので、実にうまい戦略だ。安倍は年初来の金融市場の急変を受けて「国際金融経済分析会議」を開催すると表明したが、ここで専門家が「世界経済の大幅な収縮」を確認すれば、消費増税の見送りとダブルは確定的となる。どこかのコメンテーターが、「死んでもラッパを話しません」と言うがごとく「ダブルはない」とラッパを吹きまくっているが、主要紙の紙面はその逆で構成されてきた。朝日「同日選・改憲にらむ首相」、読売消費「増税、先送りの兆候?…首相の発言に変化」、産経「永田町はダブル選に照準」、日経「消費増税先送りと衆参同日選」といった見出しが躍っている。安倍の心中はまだ分からないが、潮流はナイヤガラ瀑布のようにとうとうとダブルへと向かっているかのようである。
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