国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2016-03-17 06:02

米教授、首相の設定課題を次々クリア

杉浦 正章  政治評論家
 民進党幹事長の枝野幸男が3月16日、「スティグリッツ氏から指摘されるまでもなく、私も言っている」と得意げに発言しているが、カラスがライオンの吠え声を真似しても、説得力は無い。首相でもないのに公明党の政調会長・石田祝稔が「今のところ予定を変える環境にない」と僭越にも発言しているが、これも超高度な経済判断が出来ないことを自ら露呈しているだけの話だ。事々左様にノーベル経済学賞を受けた“権威”の発言というのは重いのだ。その重い発言をジョセフ・スティグリッツから引きだした首相・安倍晋三は、着々と消費増税“先送りカード”を切る準備に着手したかのようである。そうでなければ、わざわざ「国際金融経済分析会合」などを設置する必要も無い。歴代首相と比較しても実に巧みな「政局運営」をするものである。急がば回れの政治手法なのである。

 安倍の設定した消費増税再延期へのハードルが、次々に除去されたのが16日の会合だ。まず「リーマンショック並みの事態が起きない限り延期しない」は、スティグリッツが「2015年は08年の金融危機以降最悪の状況だったが、16年はさらに弱体化する」と述べた事によりクリアされた。08年はリーマンショックのその年であり、現状は「リーマンショック並み」なのである。さらに安倍の条件である「世界経済の大幅な収縮」については、スティグリッツは「大低迷」と表現してクリアした。さらに重要なのは、安倍が会合の冒頭で「伊勢志摩サミットでは世界経済情勢が最大のテーマになる。議長国として各国首脳と突っ込んだ議論を行い、世界経済の持続的な力強い成長に向けて明確なメッセージを発出したい」と発言した問題だ。この「議長国の責任」は新たに設置したハードルだが、これもスティグリッツは「日本は非常に強い金融政策を実施して、景気を刺激してきたが、それはもう限界に達しており、次に財政政策を取るということが重要だ。問題の根本的な原因の1つが総需要の不足であり、伊勢志摩サミットでは需要を刺激するような政策について各国で議論してほしい」と述べた。

 これは財政出動の勧めであり、発言は2月に上海で開かれた主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議(G20)の共同声明に沿ったものといえる。同声明は「金融政策のみでは均衡ある成長につながらない。機動的に財政政策を実施するべきである」と強調している。このスティグリッツ発言も、安倍にとっては、消費増税再延期を決断する後押しになるものに他ならない。消費税引き上げはまさにG20の声明に逆行するものになるからだ。サミット議長国としては世界経済の潮流を無視することはできまい。スティグリッツは「現在のタイミングで消費税率を引き上げるのは間違った方向になる。世界経済がこんなに弱くなることを予想できていた人はおらず、経済情勢が変わったなら、政策もその変化に対応していかなければならない」と言明したが、これも安倍にとっては我が意を得たりの発言に違いない。安倍は「景気が失速したら元も子もなくなる。日本を含めて世界の需要を作って行くことが重要だ」と応じている。毒づき枝野が増税再延期を「自らの経済運営の大失敗だと認めること」と批判しているが、民進党幹部は世界情勢の変化を度外視して、自ら想定すらしていなかったデフレからの脱却を安倍が成し遂げつつあることを、無視してはいけない。

 現状は、誰も想定できなかった経済情勢なのであり、視点を変えれば、民主党政権でデフレ脱却、企業の史上最高の利益、事実上の完全雇用を実現出来たか、ということだ。野党は派遣と正社員の格差を突くが、派遣すら雇用できなかった自らのふがいなさを恥じるのが先決だろう。こうして、筆者が新年早々予言した政局展開、つまり増税再延期と衆参同日選挙に向けて安倍が着々と布石を打っている形が濃霧の中から浮き出るようになってきた。もちろん分析会合には慎重論も出ることが予想されるが、22日にはスティグリッツと同様にノーベル経済学賞受賞者2014年の消費増税延期決断に決定的な役割を演じたポール・クルーグマンが延期論を展開することになろう。これで分析会合の流れは決まる。どこかの半可通記者が増税延期と同日選挙を「憶測」と書き立てているが、臆測とは「物事をいいかげんに推し量ること」であり、今の政治状況で使う用語ではない。教えてやれば、少なくとも「観測」であろう。朝日も読売も産経も用語に注意する新聞は「観測」としている。 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム