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2016-05-24 06:47

「ややもすると解散」のきな臭さが漂い始めた

杉浦 正章  政治評論家
 これは「なにやらきな臭い」としか言いようがない。首相・安倍晋三がまた解散を考えているフシが出てきた。これを察知したか、自民党国対委員長・佐藤勉は「ややもすれば、そんなことになりはしないかと心配している」と5月23日に述べた。命名すれば「ややもすると急襲解散」だ。安倍のことだから実行するかどうかは別として、脳裏にないわけがない。とりわけ野党が内閣不信任案を提出した場合には、全1人区で成立する可能性がある野党の候補一本化をダブルで粉砕するため、解散で逆襲する可能性も出てきた。したがって同日選挙の可能性は復活して、5分5分の見通しとなってきた。とにかく安倍の解散への決断は「軽妙」としか言いようがない。2014年11月21日の衆議院解散には驚かされた。2012年の総選挙で政権獲得後2年で突然解散である。今回は解散すれば1年半でやることになるが、衆参で勝てば、オリンピック間際までの任期となる。14年の解散の可能性を最初に明言したのは民主党幹事長・枝野幸男だ。9月の段階で解散を予言していた。ほかのことは外れるが、解散に関する動物勘はどうも冴えているようだ。

 今度も民進党幹事長・枝野は21日「首相が腹の中で何を考えているのかは分からないが、8割方ダブル選挙だと思った方がいい」と不気味な断定をしている。参院一人区では32選挙区すべてで、野党候補一本化の流れが強まっており、このままでは自公は厳しい戦いを強いられる可能性が大きい。これを粉砕するためには、安倍がダブル選挙を選択する事が一番得策となる。衆参で野党が共闘することは、ねじれが生じて困難であるからだ。安倍はいったんは4月14日の熊本地震の被害状況を見て同日選挙を断念したかに見えた。現在でもなお7~8万人が避難生活を続け、長期化する様相を見せている。その中で政権与党の利益だけでダブル選挙を断行すれば、批判の目は政権に向けられ、衆参双方で敗北しかねない可能性があった。しかし仮に7月10日の選挙とした場合、震災から4か月たっており、粉じんもかなり治まる可能性がある。どっちみち参院選挙は行われるのであり、これに衆院選挙を加えることは技術的に不可能ではない。問題は熊本で同日選挙が可能かどうかだ。民進党の松野頼久は国会で安倍に「選挙の管理や事務ができる状況ではない。ダブル選挙は(与野党)どちらが有利、不利かは関係なくやめてもらいたい」とクギを刺している。

 それではダブルが事務的に可能かと言えば政府筋は「不可能ではない」と述べている。まず国政選挙に関しては、熊本地震による引越し先が国内である限り、常に選挙権がある。引っ越さない場合は地元で従来通り選挙権を行使できる。専門家の見方は、他の区市町村に引越した場合、転入届を出した日から3か月が過ぎなければ選挙人名簿に登録されないため転出先の区市町村では投票ができないこととなる。一方で、 引越し前の区市町村で選挙人名簿に登録されていた場合は、住民票移動の手続き日から4か月を過ぎるまでは選挙人名簿に登録されている。したがって、引越し先の区市町村の選挙人名簿にまだ登録されず、投票ができないときは、原則として旧住所地の区市町村で投票することが可能だ。また、引越し前の区市町村の選挙人名簿に登録されている場合で、引越し後の区市町村で投票を行いたい場合は、『不在者投票』の手続きを行うことで、引越し先で投票が可能となる。したがって、安倍が決断すればダブル選挙はおおむね可能であろう。

 おりから、選挙の環境は政権与党にとって極めて良好である。サミットがあるうえに、27日のオバマの広島訪問は、国民の9割が支持しており、野党は寂として声なしの状況が続いている。安倍にとって絶好の晴れ舞台が続くのだ。過去にも酷似する例がある。1986年の中曽根康弘による死んだふり解散・同日選挙だ。同年5月4日の東京サミット後の解散でダブルに持ち込み、圧勝した。今回は伊勢志摩サミットに加えて、オバマの広島訪問が付録についている。内閣支持率も読売の調査で53%と、高止まりを続けている。政党支持率は自民党が突出している。マイナス要因としては「舛添疑惑」と、沖縄の女性遺棄事件、熊本の被災があるが、舛添疑惑は東京限定であるうえに、都知事に担いだ自公への批判はまだ高まっていない。舛添を辞任に追い込めば世論は喝采(かっさい)する。沖縄の事件も安倍・オバマ会談などで沈静化は可能だ。熊本も、選挙をスムーズに行う段取りをしっかりとしつらえれば、7月の時点でそれほどの批判にはならないかも知れない。

 こうして、ダブル選挙への状況は大局的にはまさに千載一遇のチャンスという流れが生じてきている。加えて安倍が消費増税凍結か延期に踏み切れば、これで国民の信を問う口実は出来る。おまけに野党が内閣不信任案を上程すれば、安倍の性格から言って解散で切り返す可能性がある。まさに外交、内政が三つ巴、四つ巴となって、政局に大きな影響を及ぼす激動段階へと突入した。安倍がこの状況を捉え、解散するかどうかは、全く予断を許さない。同日選挙の可能性はまだ5分5分としか言いようがない。その決断は会期末6月1日までの約1週間以内に行われる。
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