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2016-06-05 01:37

(連載2)新段階に入ったアベノミクス

島田 晴雄  千葉商科大学学長
 いまひとつ、規制改革会議報告書「規制改革に関する第4次答申:終わりなき挑戦」を見よう。答申は、おもに5つの分野で具体的な規制改革を提案している。(1)健康・医療分野では在宅看取り規制改革や診療報酬審査の効率化など、(2)雇用分野では有期雇用法制見直しなど、(3)農業では牛乳・乳製品の生産・流通の規制改革や生産資材価格形成の仕組み見直しなど、(4)投資促進では運転免許規制、インバウンド観光規制、エネルギー・環境規制などの諸規制の見直しなど、(5)地域活性化分野では民泊サービスの規制緩和などが挙げられている。

 ”一億総活躍”をキャッチフレーズにした新段階のアベノミクスは、以上見たように、子育て中の主婦が働きやすく、非正規労働者の待遇を改善し、介護離職せずに働きつづけられるような政策支援によって労働力参加を促進して、経済成長を支えること、他方、ICT進化によるデータ革命時代の潮流をとらえて、産業各分野の活性化をはかる、さらに具体的な分野で規制改革を進めるといった内容になっている。

 多くの政策項目が並べられているが、問題は、これらの規制改革によって膨大な財政赤字を吸収できるか、そして急増する高齢化の社会的費用を賄うに足る経済成長を実現できるか、ということである。政府はかねてから、2020年に向けて年率名目3%、実質2%の経済成長がつづいても、基礎的財政収支は10兆円以上の赤字になるという試算を公表している。また、多くの研究機関が、税と社会保障拠出を合わせた国民負担は、現在所得の4割に達しているが、2050年には7割を超えると試算している。しかし、足元の経済成長率は、実質でも名目でも1%前後でしかない。しかも、「新段階のアベノミクス」では、2014年に発表された第二次成長戦略が意欲的に取り組んだ経済の構造改革の視点がほとんど見られない、のも不可解だ。構造改革は本来これから本格化すべきはずだ。

 経済成長の基本要素である労働供給の促進に着眼したのは適切だが、日本の労働力は現行の経済構造のままではこれから年率0.7%そしてやがては1%程度も縮小していく、と見込まれている。サービス経済化した日本の成熟経済では、一人当たり生産性の上昇率は年率1.2%ないしせいぜい2.0%程度しかないと見込まれている。労働力減少を考慮すると、長期的な潜在成長力は0.5%ないし1.5%程度となる。その程度の成長では、上記の財政問題や高齢化の社会的費用の問題は深刻化するばかりだ。それでは日本経済は遠からず持続可能性を失う運命になる。この大問題には「新段階に入ったアベノミクス」でも、おそらく対処できないだろう。それでは、私たちは何をなすべきなのか、次の機会に考えてみたい。(おわり)
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