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2016-06-16 06:44

3度目の「自共対決」の背景を探る

杉浦 正章  政治評論家
 参院選は戦後政治史における3度目の「自共対決」選挙の様相を帯びてきた。首相・安倍晋三の発言も共産党への警戒心をあらわにするものが増え、共産党もしんぶん赤旗などで自共対決をプレーアップしている。共産党は民主党が大失政で政権を降り、2大政党による政権交代の時代が遠のいた結果をフル活用しているかのようである。その間隙(かんげき)を突くかのように勢いづいているのだ。1人区での民共共闘を成功させて、総選挙での躍進につなげる。これが共産党の長期戦略だ。舌戦のボルテージが上がっている。専ら安倍の“先制攻撃”が目立つ。それもうまい。民共統一候補について「気をつけよう甘い言葉と民進党」と言うかと思えば、「民進党には、もれなく共産党がついてくる」といった具合だ。前者は警察の「気を付けよう。甘い言葉と暗い道」をもじり、共産党との共闘の危うさを浮き彫りにした。「もれなく付いてくる」はよくあるコマーシャルの請け売りだが、1人区での共闘の現実を浮き彫りにして、すっと頭に入る。電通のプロにでも頼んだのだろうか。なかなか素人では作れない。

 この“挑発発言”が相当利いたのか、民進党代表・岡田克也と共産党委員長・志位和夫が頭から湯気を立てて怒っている。岡田が「これが総理大臣の言葉かと思う。共産党が大嫌いだという気持ちで、度が過ぎている。まるで共産党は非合法政党だと言わんばかりで遺憾だ」のだそうだ。与党には共産党に戦後の火焔瓶事件や白鳥事件以来の暴力革命政党のイメージがあるが、民進党には全く警戒心がないのだろうか。自民党総務会長・二階俊博ら党幹部も安倍に歩調を合わせて「民進党にとっては気の毒なことだが、共産党にすべてを握られてしまった。共産党に右向け右、左向け左と言われたら、その方向に連立を組んでいるのだから、動いていかなくちゃいけない。共産党に日本の政治を任せていいかどうか、この分かれ目がこの参院の選挙にあるとすれば、極めて重大な選挙だ」と、これまた挑発に出ている。

 これに対する民進党幹部の発言はどうも言い訳じみている。選対委員長・玄葉光一郎は「共産党と政権を共にするわけではない。参院選は政権選択選挙ではない」と押され気味だ。一方、対照的なのは共産党。与党の「自共対決」論が嬉しくて仕方がないのか、赤旗でも連日プレーアップしている。志位も安倍発言について「このような低次元の誹謗(ひぼう)中傷をやるべきではない。まともな政策論争ができない。政府与党による野党共闘攻撃、反共攻撃は日本の平和と民主主義、国民生活に対する攻撃にほかならない。同時に彼らがいかに野党と市民の共闘を恐れているかを示すものにほかならない」と真っ向から取り上げて、批判に出ている。共産党にしてみれば、久しぶりの「自共対決」を前面に出して戦えるのは、願ってもない僥倖(ぎょうこう)なのだ。自民党と“対”で扱われること自体が、党内外に存在感を誇示できるチャンスでもある。

 確かにこのところ共産党の躍進は著しい。2013年の参議院選挙で躍進、2014年の総選挙では議席数をこれまでの8議席から21議席に増やし、2015年の統一地方選挙では、県議空白だった7つの県で議席を獲得し、同党史上初めて全国すべての都道府県議会に党議員を獲得した。この間、自民党も党勢を挽回しており、明らかに共産党は民主党退潮の穴埋めとして党勢を拡大しているのだ。したがって、共産党があえて参院1人区で候補を降ろして民進党などと統一候補を立てる背景には、各選挙区でこれまで取れなかった“情報”を入手し、対人関係も作って、総選挙の決戦に役立てようとしている意図がある。

 共産党躍進の歴史を見れば、まず最初の躍進が1970年代前半だ。自民党副総裁・川島正次郎が「70年代は自共対決の時代になる」と予言したとおり、共産党は衆参50議席を越えている。第2次躍進は自民党幹事長・加藤紘一が「自共対決の足音が聞こえる」と述べた90年代後半から2000年にかけてだ。96年総選挙で15議席から26議席へ、98年参院選は選挙区7、比例代表8の計15議席の大幅な議席増となった。そして今回の「自共対決」だ。共産党は民進党を推すわけだから代理戦争とも言えるが、安倍発言が象徴するように、自民党の照準は共産党に合わされている。勝敗の焦点は、有権者が民共統一候補を“野合”と見るかどうかだろう。確かに自民党選対委員長・茂木敏充が指摘するように“選挙野合”の側面が目立つ。なぜなら政策の一致点は「安保法制廃棄」の一点であり、財政、経済、外交、安保で両党の主張はバラバラである。したがって、万一政権を取った場合、安保法制破棄だけは実現するが、他の重要政策では一致せず、政権は分裂の危機にさらされることになる。この大矛盾がある限り、「野合」であることは紛れもないのだろう。共産党は明らかに共闘という庇を貸して、自分の総選挙躍進という母屋を取ろうとしているのだ。
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