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2016-06-23 07:11

外交・安保の危機感なき野党とつられる与党

杉浦 正章  政治評論家
 どう見ても攻めの首相・安倍晋三に対して、防戦一方の民進党代表・岡田克也の姿が浮き彫りになってしまう。そもそも勝敗ラインの設定がひどい。岡田の言う「与党の改憲阻止」に必要な4野党議席はかなり水準が低い。民進、共産、生活、社民の改選議席の合計は54議席だが、「3分の1以上必要」な改憲阻止は、民共共闘で多数出る無所属も合わせて、同数の54議席以上取ればよい。非改選が4党で27議席だから、合計で81議席で3分の1超となる。民共統一候補は無所属が多いから、これを加えて「勝った」になってしまうのだ。民進党の改選45議席を下回っても、「勝った」なのだ。体裁が悪いのか、岡田は勝敗ラインをなかなか言わなかったが、それはこのからくりがばれるのを恐れてのことであった。一方安倍は安倍で、自民、公明両党で改選議席(121議席)の過半数61議席の獲得を打ち出したが、現有59議席に2議席プラスすれば良い。これも2議席で「勝った」になってしまう。場合によっては、与野党が共にバンザイするという珍風景が生じてもおかしくない、というのが勝敗ラインの実体だ。この参院選挙は与野党激突の割には緊迫感が伴わないのは、この辺にも事情があるようだ。

 政策を見ても、岡田は重要ポイントを隠している。安倍は「この戦い、前進か後退か、日本を成長させ、地域を豊かにしていくのか、あるいは4年前に逆戻りしてしまって、あの暗い低迷した時代に戻るのか、それを決める選挙だ」と一応明快にアベノミクスの是非の選択を迫っている。ところが岡田は「3分の2の議席を許せば、安倍首相は必ず憲法改正をやる。30代、40代になっても給料が増えず、結婚すら諦めざるをえない若者がたくさんいるのが現実で、分配と成長を両立させる政策こそ、本当の意味の経済政策だ」と主張する。まず前提条件がおかしい。定かでない「与党で3分の2」を仮定して「改憲だ」と言っているのであり、あやふやなものを攻撃目標にしても訴求力があるのか。「30代40代で結婚をあきらめる若者がたくさんいる」というのは、政治が関与しなければならないほどの大問題なのか。貧しくても結婚する若者は、しない若者を大きく上回って存在するのであって、これも前提が成り立ちにくい。

 重要ポイントは、安倍の「成長と分配の両立路線」に対して、岡田は一応「分配と成長」と言及はしているものの、成長に関する具体策には全く言及していないことだ。あきらかに社会主義政党にありがちな“分配”の言葉のみでごまかしている。要するに、岡田の打ち出す政策は党勢拡大を創出するような意欲に欠け、専らアベノミクスにケチを付けることにとどまっているのだ。たとえば2007年の参院選は「消えた年金」問題の追及で、与党惨敗に追い込み政権交代への道を開いた。このような国民の共感を得られ、浮動層やライトウイングにまで幅を広げた政策が全く見られない。党内左派が辛うじて維持している党組織を、タブーである共産党との共闘をテコに確保するのが精一杯の実体を垣間見せるのである。縮み傾向を隠せないのだ。その共産党との共闘は、民進党にとって断崖絶壁にぶら下がり、眼下に深淵を見るようなものになっている。共産党委員長・志位和夫が、狙っているのは「トロイの馬」戦略だ。この参院選挙での共闘で、民進党の地盤、人脈に食い込み、総選挙でそれをフル活用して党躍進につなげる。岡田はこれに引っかかっていることに全く気付かないで、喜々としてトロイの馬を引き入れているのだ。志位が第一声で「あれこれの政策の違いがあったとしても、これを横に置いてでも、最優先にやるべき仕事ではないか」と述べているのは、まさに政策無視の野合をしてでも、党勢拡大につなげるという「共産党宣言」に他ならない。

 さらに第一声では岡田だけでなく、4野党に共通して、外交・安保への深い言及がない。これは野党が日本を取り巻く環境に言及すればするほど不利になる、という実情を物語っている。加えてサミットからオバマの広島訪問にいたる安倍外交の成果に触れることになりかねないことも、外交・安保論争から野党を遠ざけている。東・南シナ海での中国の覇権行動、北朝鮮のミサイル発射など目の前にある情勢の激変に、野党が全く言及しないのはどうしたことか。与党までつられて言及を避けているが、安保法制がなくてもこの難局を乗り切れるかのか。野党にその瀬戸際意識がないのは当たり前だが、与党にも薄いのは野党への刺激を避けるためなのか。中国艦船の領海、接続水域への侵入、南シナ海での暴挙、北朝鮮の「ムスダン」ミサイル発射などは、まさに抑止力としての安保法制がなければ極めて危ういものになっていたであろう現実を、国民に説く絶好のチャンスである。中国の横暴と北のミサイルは自民党にとってプラスに作用しているのであり、野党につられていることはない。正々堂々と安保法制の正しさを、その破棄は敵前逃亡に等しい愚挙であることを、切切と国民に訴えるべきであろう。
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