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2016-07-13 17:54

(連載1)ヒラリー・クリントン氏はオバマ外交路線から脱却できるか?

河村 洋  外交評論家
 今年のアメリカ大統領選挙では、共和党のドナルド・トランプ候補が炎上発言と暴言で多大な注目を集めている。怒れる群衆によるグローバル化への反動、そしてトランプ氏の孤立主義に世界は戦慄した。アメリカ国外の指導者やメディアはトランプ氏が大統領になることに恐怖感を抱くあまり、民主党のヒラリー・クリントン候補を諸手を挙げて歓迎しているかのようにも思われる。言動に一貫性もなく無知丸出しのトランプ氏よりクリントン氏がはるかに優れていることには疑問の余地はない。しかし我々はバラク・オバマ大統領の3期目を望んでいるわけではない。我々に必要なのは、アメリカの指導力発揮を躊躇してきたオバマ外交を転換できる候補者である。オバマ氏はイラクとアフガニスタンでブッシュ政権が始めた戦争の終結にとらわれて、両国の治安部隊の再建の支援を充分にしなかった。その結果、イラクはテロリストの根拠地となり、そこから全世界にテロが拡散している。また米国民の間で中東での長きにわたる戦争への厭戦気運が広まり、それによってアメリカは民主主義の普及に消極的になり、敵対勢力が勢いづいている。トランプ氏の「アメリカ・ファースト」ではオバマ氏の失敗をさらに悪化させることになろう。そのため、ヒラリー・クリントン氏がオバマ氏の謝罪的で宥和的な外交を転換できるかを、注意深く見守るべきである。

 クリントン氏の外交政策顧問と選挙運動資金源はリベラル・タカ派のビジョンを反映している。ネオコンの指導者ロバート・ケーガン氏は『ワシントン・ポスト』紙2月25日付けの論説で(ということは、かなり早い時期から)クリントン氏への支持を表明し、6月には資金調達の運動まで始めている。またクリントン氏は予備選期間中の4月1日時点では、他の候補者を差し置いて軍事産業から最も多くの献金を受けている。共和党国際派のジェブ・ブッシュ氏とマルコ・ルビオ氏が選挙から撤退した以上、クリントン氏は自国の近隣に重大な脅威を抱えるアメリカの同盟国にとって最後の希望である。

 実際にクリントン氏はいくつかの点ではトランプ氏よりも共和党的である。『フォーチュン』誌の調査によれば、大企業経営者の58%は「経済政策が不透明で、孤立主義によって自分達の国際的な事業展開に支障をきたしかねないトランプ氏よりも、クリントン氏の方が好ましい」と見ている。さらに共和党からも元政府高官から政策専門家にいたる著名人がクリントン氏支持を表明している。そうした支持者にはロバート・ケーガン氏やマックス・ブート氏のようなネオコンの有識者だけでなく、両ブッシュ政権で要職にあったリチャード・アーミテージ元国務次官補、ブレント・スコウクロフト元国家安全保障担当補佐官、ヘンリー・ポールソン元財務長官らが名を連ねている。こうした観点からすれば、クリントン氏が強く責任あるアメリカの候補者になれると期待もできる。

 他方でクリントン氏の選挙地盤が同氏を左傾化させる可能性も否定できない。クリントン氏には黒人やヒスパニックといったマイノリティーからの支持を強化するためにも、オバマ氏の支援が必要である。きわめて不思議なことに、オバマ大統領の支持率は任期の終了にさしかかって上昇し、それがクリントン氏の選挙運動に役立っている。さらにクリントン氏にはバーニー・サンダース氏を支持する白人労働者階級の支持を取り付ける必要もある。これはクリントン氏の副大統領候補の選定にも重要な鍵となる。クリントン氏が選挙に勝つためにオバマ氏と組もうと、サンダース氏の支持層と妥協しようと、それほど大きな問題ではない。深刻な問題となるのは、彼らの影響力が外交政策に浸透することである。そうなってしまうと、クリントン氏の政権はオバマ政権の第3期になりかねない。

 上記のような観点から、クリントン氏が6月2日にサン・ディエゴで行なった外交政策の演説について述べてみたい。クリントン氏の演説は、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」の見解と核不拡散に対する無責任な発言を否定するうえでほぼ模範的とも言えるものだった。また、クリントン氏はアメリカ特別主義に基づいた世界の中での指導力の発揮を強調した。クリントン氏が演説で述べたことは、ジェームズ・ベーカー元国務長官が5月12日に上院外交委員会で行なった証言とも重なり合う。(つづく)
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