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2016-09-15 06:47

「北の核」が米大統領選テレビ党論の焦点に

杉浦 正章  政治評論家
 佳境に入ってきた米大統領選の論戦テーマに急浮上してきたのが、北朝鮮の核実験に端を発した極東の安全保障問題だ。クリントン、トランプ両候補はいよいよ9月26日から3回行われるテレビ党論で雌雄を決するが、このテレビ党論はニューヨークタイムズが「76%で優勢」と報じたクリントンが、劣勢のトランプにとどめを刺すものになるか、あっと驚く逆転劇の場になるか。2人とも相手に向けて「大きな落とし穴」を掘る競争をしているかのようである。テレビ党論となると必ず指摘されるのが、1960年の大統領選挙におけるニクソンとケネディの勝負だ。まだ白黒テレビで、テレビ党論も初期であったが、両人ともそれまでのラジオ討論と比べて「テレビ映り」が鍵を握るということは知っていた。このため入念なメーキャップを施したが、ケネディの方が上手(うわて)だった。カメラテストで着ていた白シャツが映えないと知り、急きょ青シャツを事務所から取り寄せて着替えた。そのうえたっぷり休養をとって日に焼けた顔でリラックスした姿を強調した。一方でニクソンも無精ひげが目立たないように念入りに化粧をしたが、ドーランを塗りすぎてテレビに映った姿はまるで病人。母親が討論後「病気ではないか」と電話してきたほどであった。この印象が討論を決定ずけ、ケネディが勝ったと受け取られた。

 以来テレビは内容より見栄えが大事な報道機関として、とりわけ日本でも“成長”したのだ。ちなみにラジオで討論を聞いた多くの有権者はニクソンが勝ったと思ったといわれている。まさにテレビ党論には魔物が住んでいるのだ。些細なことが致命傷になる。だからクリントンも油断はできない。クリントンは討論を通じてトランプの“本性を” 暴く戦術に出るだろう。これまでは別々の場所で一方通行の非難合戦を繰り返してきたが、テレビでは相手を誘導することができる。クリントンはおそらくトランプの知性の欠如、無知蒙昧、短絡指向を露呈させて、このような人物がホワイトハウスで核のボタンを持つ危険性を指摘することになりそうだ。とりわけ、クリントンはトランプが対北朝鮮対策で日韓の核武装論を展開したことを取り上げる可能性がある。

 既にクリントンは日韓の核武装論などに関連して「トランプ氏は自分で何を言っているかも分かっていない」と辛辣な批判をしているが、さすがにまずいと思ったか、トランプは「私が日本の核武装を望んでいるという彼らの言い分は真っ赤な嘘だ」と反論した。公開の場で繰り返し発言したことを「真っ赤な嘘」とイケシャーシャーと否定できる人物は珍しい。おまけに「金正恩が訪米するなら会談する」とも述べた。これは極東で起きていることを全く理解していないことを物語る。米韓で暗殺作戦が練られている張本人が米国に来るわけがないことすら理解していないのだ。しかし誰の入れ知恵か、トランプは「クリントン氏は国務長官時代に北朝鮮の核開発を止めると約束したが、核開発は強さを増して複雑化した。」と痛いところを突いてはいる。両候補ともオバマの「戦略的忍耐」路線から外交、軍事両面でより積極的な対応をしようとするだろう。テレビ討論では軍事力行使か否かのきわどいやりとりがされることもあり得る。もちろん北が核ミサイルを発射するような兆候がある場合には、先制攻撃に出る事では一致する可能性がある。

 さすがにクリントンは北に関するすべての鍵を中国が握っていると事の本質を理解するに至っており、「戦略の再考も必要だが、一刻も早く中国を説得する必要がある」とも述べている。オバマ時代は外交の力が示されなかったという認識では一致している。その対中外交だが、中国が両候補をどう見ているかというと、いずれも敬遠している。中国メディアはトランプを「大口たたきの人種差別論者」とこき下ろしているが、中国製品に45%もの関税をかけられてはたまらないということだろう。専門家は「中国指導層としてはくみしやすいだろう。なぜなら自尊心が強く自己中心的な人物はチベットやウイグルに腐るほどいて、扱いなれている」と分析する声もある。クリントンについては環球時報がかつて国務長官であったクリントンの訪中を「歓迎しない」と報道したことがある。「中国人はクリントン氏の弁護士的な性格が苦手。トランプ氏よりはるかに手強い」との分析もある。

 いずれにしても、テレビ党論では、北の核実験と絡んで対中批判が強く前面に出ることが予想される。もちろんクリントンはトランプの最大の弱点である外交・安保音痴の実態をさらけ出そうとするだろう。対日関係では臨時国会の焦点となる環太平洋経済連携協定(TPP)に対して両候補とも反対の方針を明らかにしているが、クリントンが大統領になった場合を意識して柔軟な見解を表明するかどうかが注目されるところだろう。加えてクリントン重病説がトランプ陣営から流布されているように、大統領の健康問題が取り上げられる公算が大きい。クリントンはテレビを通じて国民に健康であることを証明する必要に迫られている。そうかといってトランプも70歳であり、クリントンの反撃に遭う可能性もある。
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