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2016-10-19 06:43

クリントン外交は中露と対峙のタカ派路線

杉浦 正章  政治評論家
 先を読んでほとんど外さない筆者が、半年前から断定的に予想していた通りに米大統領選はヒラリー・クリントンの勝利が間違いない情勢だ。来月8日まで半月となって期日前投票が始まった州もある。この段階で米ウォール・ストリート・ジャーナル紙などが発表した最新の世論調査によると、大統領選での支持率は、クリントン50%、ドナルド・トランプ40%で、クリントンがトランプを10ポイント上回っている。逆転はないだろう。史上最悪・最低の大統領候補トランプは、もう敗北宣言をした方がいい。日本外交も誰が大統領になるかどうかなどでなく、クリントン外交の出方を集中的に検討した方がいい。基本路線はオバマのアジア重視路線を継承するだろうが、ニクソンがキッシンジャーを使ってやったように、日本頭越しで対中接近をはからないとはいえない。大統領選は538人の選挙人を選ぶ方式であり、その過半数は270人。既にクリントンは210人を確保したと言われており、残る60人を接戦中の州から確保すればよい。大接戦のフロリダ、東部ペンシルバニア両州はクリントンが制しそうであり、残るオハイオはトランプが有利とされるが、一州だけではトランプは勝てない。従ってクリントンが有利なことは間違いない。

 そのトランプが、唾棄すべき女性蔑視発言や行為が祟って落ち目となり、自ら「大統領選は八百長」などと妄言を世にさらしている。注目すべきは、米大統領の命令に従って核ミサイルの「発射ボタンを押す」担当をかつて受け持っていた元米軍関係者10人が10月13日、「トランプを大統領に就任させるべきではない」と訴える連名の書簡を公表した点だ。10人はこの中で「大統領が核兵器の発射を命じれば拒否できない。誤算、衝動的な決定、まずい判断の結果は破滅的だ」と指摘して、トランプを全面否定している。衝動的で何をするか分からない男をホワイトハウスに入れてはならないのだ。そこでヒラリーの外交だが、ヒラリーは民主党内でも最もタカ派と見られており、「リベラル・ホーク」を基本とするだろう。リベラル・ホークとは、政治的にはリベラルだが、外交においては介入主義的な政策を支持する政治ポジションだ。米民主党のタカ派議員などに多く、NATOや日米同盟を基軸に、アメリカの強い軍事力によって自由主義的価値観を世界に広めて、世界の秩序を安定させる方針を主張している。時には軍事力を使うこともためらわない。このため共和党の支持者も多く、親日派外交官のリチャード・アーミテージもヒラリー支持を公言している。その安全保障政策への信頼から軍需産業の献金を最も受けているのも、ヒラリーであるといわれる。

 例えば対中外交を取ってみると、尖閣問題でクリントンは既に国務長官時代に外相・前原誠司に「尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用対象範囲内である」との認識を示し、外相・岸田文男にも「日本の施政権を損なういかなる行為にも反対する」と発言している。基本的には対中対峙を前面に出すだろう。国務長官としての最初の外遊は日本、インドネシア、韓国、中国の順でアジア重視の姿勢を示している。このアジア重視の姿勢からいって、おそらく親日派外交官のカート・キャンベルを重要ポジションに起用することになろう。キャンベルは夫のビル・クリントン政権ではアジア・太平洋担当国防副次官補であった。米国のアジア政策の要と言うべき存在であり、オバマ政権ではクリントンとともにアジア重視の「リバランス(再均衡)」戦略を推進した。知日派でも有名であり、日本政府や経済界が、クリントンの大統領就任を期待するのはこのためでもあるほどだ。豪紙「オーストラリアン」は、同国の元外相・ボブ・カーが「次期国務長官候補と述べた」と伝えているが、その実現性はともかくとして、クリントンの外交ブレーンになることは間違いあるまい。

 対露外交の姿勢も、オバマのように煮え切らないものではあり得ない。クリアカットとなり、プーチンには手強い相手となろう。対北朝鮮外交も、金正恩の目指す核による恫喝外交に巻き込まれることはないだろう。オバマより厳しい政策を打ち出す可能性もある。ただ冒頭挙げたニクソンの例に見られるように、とかく米国の新大統領は、局面転換を目指そうとする傾向があり、同盟国としてはその一挙手一投足を注視しなければならないことは言うまでもない。沖縄問題では、かつてクリントンが普天間の早期移設を求めたことがあり、オバマと違って早期実現を求める可能性もある。TPPについては、選挙中メディアが「反対」と報道しているが、発言には微妙なニュアンスがある。選挙中の主張がクリントン政権の政策になるとは限らないのだ。TPPが、クリントンの求める雇用の増加、賃金の増加、安全保障の強化に役立つことは言うまでもなく、安倍政権が条約承認を先行させれば、最終的には推進せざるを得なくなると見る。それを見越してオバマが自分の政権在任中に議会の承認を取り付けようとしており、クリントンも陰に陽にオバマを助けることにならざるを得まい。
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