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2016-11-06 08:54

(連載2)西側民主主義の再建によって不確実性を増す世界を乗り切れ

河村 洋  外交評論家
 西側民主主義の弱体化が顕著である。これは今年のアメリカ大統領選挙に典型的に見られ、それは政策上の真面目な意見交換よりも民主党と共和党の候補者同士の低俗な中傷合戦に陥っている。本来は良き統治の模範であったはずのアメリカの民主主義に、国際世論は幻滅している。そうした事情はあるものの、ヒラリー・クリントン氏はドナルド・トランプ氏に対して全ての討論会で、政策理解について優位にあることを見せつけた。クリントン氏が当選すれば、自国優先主義、人種差別主義、男性優位主義そして孤立主義の有害な影響は弱められるだろう。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がトランプ氏を支援しようと選挙に介入してくるのも当然である。国際世論はトランプ現象、ブレグジット、ヨーロッパ大陸諸国での極右の台頭などが、低俗で、反主知的なものであることを知っている。皮肉にも、こうした愛国者気取りの人々の間に広がるNIMBYな排外主義こそが、西側主要国の名声と国際的地位に害をなしている。

 政策エリートが自由で開放的で理性的な民主主義を再強化するには、どのようにすべきだろうか?この問題に対して単純明快な答えはないが、少なくとも大衆の自国優先主義に妥協してはならない。例えば、オバマ政権が在任中にアメリカ国際開発庁を通じた民主化支援の予算を削減したのは、国民の関心が低下したからである。2013年に行なわれたピュー研究所の調査では「民主化の促進が外交政策上の優先事項だ」と答えたアメリカ国民は18%に過ぎず、80%が「海外への介入よりも国内の問題を優先すべきだ」と答えている。しかし、そうした対外不関与の傾向がアメリカの国家安全保障に重大な危険を及ぼしている。こうした人々は、ソ連撤退後のアフガニスタンに対する西側の無関心が9・11同時多発テロという大事件につながったことを思い出すべきである。トランプ現象やブレグジットのような自国優先主義の台頭は、エリートが国民を正しい方向に教育できなかったことの結末である。

 しかし、西側民主主義の全てが悲観的な状況にあるわけではない。フーバー研究所のラリー・ダイアモンド上席研究員は「経済成長の鈍化によって、中国とロシアでの専制政治の正当性は失われつつある」と指摘する。民主主義は完全ではないが、ダイアモンド氏が言う通り暴力性が低く、人権が尊重されやすく、また市場経済も発展させやすい。オルタナ右翼の理念はそのように開放的で自由なものではなく、全く正反対である。彼らの思想はむしろ国家社会主義に近い。

 国際安全保障における民主主義の重要性に関しては、アメリカのマイケル・マクフォール元駐露大使の「過去においても、現在においても、世界の民主主義諸国の全てがアメリカの同盟国ではないが、アメリカの敵となった民主主義国は過去にも現在にもない。そしてアメリカにとって最も永続的な同盟国は、全てが民主国家である」という発言を思い起こすべきである。皮肉にも、国内で機能不全に陥った民主主義は、自由世界にとって外部からの脅威と同様に大きな脅威となっている。よって、我々は国内において民主主義を再建するとともに、世界において民主化普及の取り組みを再強化し、我々にとってかけがえのない安定した世界秩序を取り戻す必要がある。(おわり)
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