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2016-11-07 11:20

次期米政権がアジアで指導力を再確立できるように

鍋嶋 敬三  評論家
 米国のオバマ政権下の8年間でアジア情勢は大転換した。海洋で一方的な現状変更を進める中国に対し、米国の影響力後退によるバランス・オブ・パワー(勢力均衡)の変化である。北朝鮮の核・ミサイル開発、南シナ海紛争を軸に米中関係、米国と地域諸国の同盟関係のあり方も変わった。アジアだけではない。ロシア、中東、テロリズム、サイバー攻撃など技術革新に伴う新たな脅威が唯一の超大国・米国を翻弄している。米国が君臨してきた第二次大戦後の世界秩序が転換期を迎えているのである。これにどう対処するかが大統領選挙の最大のテーマであるはずだったが、民主党クリントン、共和党トランプ両候補とも政策論争よりも中傷合戦に陥り、「最も醜い選挙」と国民をしらけさせた。

 11月8日投票の選挙でどちらが勝っても、問われるのは世界の指導者として世界の安定の実現を目指した具体的な構想と方策を示し、強い決意と実行力を持って米国のリーダーシップを再確立することだ。新政権のアジア太平洋外交の要は対中国関係の処理である。北朝鮮や南シナ海問題をとっても、中国こそが地域安定の鍵になるからである。習政権は「新型の大国関係」を掲げ、米国に「対等の関係」を迫ってきた。オバマ政権の対中「弱腰外交」姿勢が北朝鮮への制裁強化の停滞、南シナ海への人工島建設と軍事拠点化を許した原因である。大統領の信任厚いライス国家安全保障担当補佐官の対中協調姿勢が反映されたためであろう。オバマ政権で国防長官が4人も代わったのは政権内部の確執が背景にあったためだ。

 対中関係では安全保障政策の対立とは別に、核拡散、地球温暖化、テロ対策など世界的課題についての協力が不可欠だ。しかし地域の軍事情勢を安定させるためには、中国に「国際法に基づく行動」の原則を認めさせることが必要だ。そのためにも同盟関係の立て直しが急務である。フィリピンの離反に続いて、韓国では朴政権が不祥事で最大の危機に追い込まれた。タイも中国にすり寄り、北から南まで同盟戦略にほころびが生じかねない。日本がなすべきことは何か?日米安全保障体制がアジアの中でも米国にとって最も信頼できる同盟関係であることを新政権がしっかり認識できるようにすることだ。まず、日本政府が防衛力の強化を急ぎ、責任を持って日本の安全を守る決意を示すべきである。日米合意以来20年間も漂流してきた沖縄の普天間基地移設計画を遅滞なく進めることが日米間の信頼関係の推進には欠かせない。

 日本は環太平洋連携協定(TPP)を早く承認して、オバマ政権が残り2ヶ月間に現議会が批准して協定が発効するよう、米国を支える役割を果たさければならない。日本の批准がオバマ政権の議会説得には援軍になる。アジアの安定的な勢力バランスは米中両国だけで実現できるわけではない。日本としてはオーストラリアを含めた米国の同盟国間の安全保障ネットワーク、東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドなどとの協力体制の強化、中国との関係再構築が重要な課題である。米国の大統領に誰が就任するにせよ、その政権移行チームが選挙後に発足する直後からスピード感を持って日本側の考えを新政権にたたき込むことが必要である。
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