国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2017-07-14 04:35

自民に「大型倒閣議連」は出来まい

杉浦 正章  政治評論家
 大統領ドナルド・トランプの長男であるドナルド・トランプJrがTwitterでCNNのロゴを貼り付けたロシアのジェット機をトランプが攻撃する動画を公開している。トランプは「お前はクビだ!」という決めゼリフを吐き、ミサイルを発射、撃墜している。さしずめ首相・安倍晋三がやるとしたらマスコミは1社にとどまらないから、敵が多すぎる。自民党内なら主敵は石破1人だから簡単に撃墜できる。冗談はともかくとして、各派領収の中で石破の“孤立”が著しい。なぜ孤立しているかと言えば、このところ朝から晩まで口を開けば安倍批判を繰り返す“特異”な存在となっているからだ。メディアは何とかして「安倍降ろし」政局を実現したいからやんやの喝采を送るが、党内的には“浮いて”しまっているのだ。

 昔の長期政権でも浮いた人がいた。佐藤政権時代の外相三木武夫だ。佐藤は政権当初は三木への禅譲を示唆していたが、その後次第に福田赳夫と田中角栄を競わす形で“育成”をはかりだした。そして総裁選で佐藤が3選に出馬することが分かると、やっと禅譲はないことを知った三木は「男は1度勝負する」と外相を辞任して出馬した。佐藤はなんと国会で「三木君を外相に起用したことだけは不明のいたりであった」と答弁。総裁選は佐藤が圧勝して三木は以後干された。しかし結果的には首相になれたのだから、三木は「いい勝負」をしたことになる。安倍は紳士だから石破に対して「閣僚に起用して不明のいたり」などとは言わないが、不愉快であることは間違いあるまい。石破は三木のように「いい勝負」をしたいに違いない。7月13日も「負けに不思議の負けなしだ。都議選の結果をどう考えるかという機会を党全体として持たないと記憶は薄れる」と発言した。明らかに安倍の責任を問おうという構えだ。しかし、党内は「第一義的には小池にやられた」 (党幹部)という見方が支配的であり、副次的に安倍側近らの責任に言及する程度だ。それも公言する者は少ない。

 こうした中で麻生の読みは早かった。都議選開票日の7月2日夜安倍と、菅義偉、甘利明との会合で明らかに安倍支持と受け取れる姿勢を示し、その後も「安倍政権をど真ん中で支えてゆく点で一点の乱れもない」と言い切った。一方外相・岸田文男も13日の同派会合で「数字や批判に一つ一つ振り回されるのは情けない限りだ。安倍政権をしっかり支え、与党の責任を果たす」と言明して、安倍支持を鮮明にした。岸田は「安倍支持」を二度にわたって繰り返している。明らかに現段階での安倍退陣は無理と判断、“禅定路線”の追求となった。自民党幹事長・二階俊博に至っては都議選前の2月の段階から「支障がない限り3選支持は間違いのないわれわれの方針だ。国際的に見ても首相が進めている外交は今のところどれ一つ取ってみても非の打ち所がない」と述べ、いち早く支持している。都議選敗北後に発言しないのは、敗北の責任が自らにあるからにほかならない。

 こうしてこれまでに、合計すれば250人に近い議員を糾合した派閥の領袖が支持を表明するに至っている。そもそも政権を引きずり下ろそうとした場合、自民党内には議員連盟が出来て、これが核となって反政権の戦いを展開するケースが多い。「三木おろし」の挙党体制確立協議会(挙党協)が有名だし、「宮沢降ろし」も「政治改革議員連盟」が出来て、内閣不信任案の可決へと導いた。石破が吠えまくっても、不満分子は集まって気勢を上げる可能性はないではないが、大きな倒閣議員連盟が出来るような動きには発展しそうもない。むしろ党内は内閣改造へと焦点が移りつつあるように見える。党内には「石破さんは来年の総裁選に立候補しても20人の推薦人が集まるのか」という声すら聞こえる。テレビばかり見ているとまるで石破が党内をリードしているかのように見えるが、実情とは天地の差がある。

 こうした党内の空気を読み取ってか、安倍は7月13日、野党が求めている衆院予算委員会の閉会中審査に月内に出席する意向を固め、国対委員長竹下亘に伝えた。竹下は当初から審査を拒否する方針であったが、安倍の意向を尊重した。安倍は自信がなければ出来ない対応である。安倍はこれまで加計学園の今治市誘致に関連して「もし私が働き掛けて決めたならば責任を取る」と究極の発言をしており、野党の質問を突っぱねるものとみられる。その上で8月初旬に改造に踏み切るものと予想される。今回の改造ほど長期政権を維持出来るかどうかのカギを握るケースは珍しい。まず改造で支持率が上がるかどうかがポイントだ。これまで安倍は14年、15年、16年の改造で下降気味の支持率を上昇させてきた。今回の支持率下落は側近の疑惑やヒステリー女が足を引っ張ったケースであり、安倍本人を直撃するものではない。いわば指導責任が問われているだけであり、改造に成功すればおそらく読売と産経の支持率は上昇するだろう。しかし、朝日、毎日、TBS、テレビ朝日の支持率がすぐに上がるかどうかは微妙だ。もともと世論調査などはいい加減なところがある。編集方針によって恣意的に動くのだ。調査員の言葉遣いや聞き方の順序で回答者の反応が異なるからだ。これらの反安倍メディア対策も長期政権維持には欠かせない。安倍は3日に毎日とのインタビューに応じているが、あの手この手でメディアの敵を少なくしてゆくことも重要だ。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム