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2007-05-02 17:27

「揺るぎない同盟」は重層的に

鍋嶋敬三  評論家
 安倍晋三首相はブッシュ米大統領との首脳会談(4月27日)では、個人的な信頼関係を築くことが最大の目的となった。首相就任後の訪米を半年以上も延ばしている間に、イラク戦争についての麻生太郎外相や久間章生防衛相の「不規則発言」で日米同盟関係が揺らぎかねない状況が生まれた。日米安保体制の存在を「当然のこと」として受け止めている政権の「緩み」が露呈したと言わざるを得ない。ブッシュ政権の北朝鮮政策が強硬路線から柔軟路線に転換しつつあったのに日米間で綿密なすり合わせもできなかった。ブッシュ政権中枢の変化を読み取ることができなかった付けが回ったのだ。

 首相は大統領との間で「かけがえのない日米同盟」の構築で一致した。「揺るぎない同盟関係」として強化していくというのが訪米の目的でもあった。北朝鮮が6カ国協議の合意を履行しなければ圧力を強化すること、北朝鮮に対するテロ支援国家指定の解除に当たっては、拉致問題を「考慮に入れる」と大統領が約束したことは、安倍首相に取っては大きな成果である。とりあえず、北朝鮮問題での日米不協和音を抑えることができたのは、9・11テロ以来、小泉純一郎前首相がブッシュ政権を正面から支持、日米同盟の「証し」として自衛隊をインド洋やイラクに派遣し、復興支援もしてきた「置き土産」がまだ生きているからだ。

 ブッシュ大統領は安倍首相との共同記者会見で合意を履行しない北朝鮮に対する「我々の忍耐力は無限ではない」と3回も繰り返し、追加的な制裁の能力にも言及した。一方で大統領は米国の柔軟路線を「ソフトとは言わない。賢明な外交だ(wise diplomacy)」と強調、あくまでも外交的解決を目指す方針を明確にしている。

 日米同盟の深化に必要なのは第一に、首脳間の信頼関係である。小泉氏は派手な振る舞いでブッシュ氏と馬が合った。安倍首相がそのような関係になるにはもっと個人的な付き合いを深める必要があるだろう。第二は政策調整の推進である。軍事面ではミサイル防衛協力や在日米軍再編がある。沖縄の普天間基地返還と移設問題は十年間頓挫した後、日米政府が新たな計画に合意した。しかし、根強い現地の反対で手付かずだ。これが動かなければ日米間の対立が深まる。日本の抑止力にかかわる重大問題だという認識を安倍内閣は持たなければならない。

 京都議定書から離脱したブッシュ政権が温暖化対策で協調する姿勢を示した。2013年以降のポスト京都議定書の国際的枠組み作りに米国を引きつける大きな意味がある。また、第三国との自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)に関する相互の情報交換、新たな原子力発電所建設の促進など日米原子力行動計画にも署名した。幅広い経済分野での協調体制に合意したことの意義は大きい。真に「揺るぎない同盟関係」は文化交流も含めた重層的な協力を実行することによって初めて可能になるからだ。
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