国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2017-09-22 13:48

(連載1)北朝鮮問題と駝鳥の平和論

袴田 茂樹  日本国際フォーラム評議員
 北朝鮮のミサイル・核をめぐって、同国と米国の間でチキン・レース的なきわどい応酬がなされている。それに対するメルケル首相の批判は正しいのだろうか。また、日本国民はこの危機に、真剣に対応しているだろうか。北朝鮮は7月に2回、ミサイルの発射実験を行った。7月28日夜の発射の後、金正恩は、「米本土全域がわれわれの射程圏内にあるということがはっきりと立証された」と述べた(毎日新聞)。それ以前に北朝鮮は、同国の大陸間弾道弾によって「アメリカ帝国は前代未聞の核惨禍の中で悲惨な終末を迎える」といった発言もしていた。そして、8月9日には、米軍基地のあるグアムから30-40kmの水域に、中長距離弾道ミサイル「火星12」4発を同時に着弾させると発表し、そのルートとミサイルが通過する日本の地名まで具体的に挙げた。ちなみに今年3月にも北朝鮮はミサイル発射実験を行ったが、日本の米軍基地が目標だと明言した。

 これに対してトランプ大統領は8月8日、グアム周辺へのミサイル発射予告の直前に、「北朝鮮は、これ以上アメリカを脅かさないのが最良だ。さもなくば、北朝鮮は、世界が見たことがないような炎と怒りに直面するだろう」と警告していた。そして、北朝鮮のミサイル予告後の10日には「8日の発言は物足りなかったかもしれない」と述べ、北朝鮮への発言は脅しではないと強調して「グアムに対して何かすれば、誰も見たことのないような事態が北朝鮮で起きることになる」「北朝鮮が新たな大陸間弾道ミサイルの発射実験や核実験を行った場合は、武力行使も辞さない」との強硬発言を行った。同時にトランプは「対話の用意がある」との発信もしてきた。

 この両者の発言に対して、ドイツのメルケル首相は北朝鮮だけでなく米国に対しても「誤った対応だ」と批判し「問題の軍事的な解決はあり得ない」と米朝双方に自制を求めた。つまり、武力行使による解決ではなく話し合いと外交による解決を求めた。外交的な対話以外に解決法はない、というメルケルの言は正論だ。しかし、彼女の考えには致命的な間違いがある。それは、状況によっては武力行使の現実の可能性を突き付けて、つまり「テーブル上に全ての選択肢」を置いて初めて、彼女の主張する「対話による解決」も可能になる、という政治のリアリズムの初歩を彼女は無視しているからである。メルケルは、中国や北朝鮮の問題が、日本にとってどれだけの脅威か、リアルには理解していない。中国に親密な姿勢を示す彼女にとっては、南シナ海、東シナ海問題も、北朝鮮問題も、「遠いアジアの紛争」に過ぎないのだろう。今回のトランプの強硬発言は正しかった。ただ問題は、大統領に安定した戦略思考が見られないことだ。側近の頻繁な入れ替えがそれを示している。

 尤も今日の時点では、たとえ「解決」が可能になるとしても、残念ながら北朝鮮の核廃棄は、無意味な(というより逆効果の)「6者協議」などで何年も無駄にしたため、すでに絶望的である。ただ今後、対応次第で北朝鮮に一定の譲歩をさせることは可能だ。事実、「グアムに向けてミサイルを発射したら武力攻撃も辞さない」とのトランプ発言に対して、8月14日に金正恩は、「米国の行動をもう少し見守る」と述べた。これは米国の強い決意の前に、世界が注視する中で金正恩が屈服し譲歩した訳で、彼にとっては大きな屈辱だ。トランプの対応に彼が屈したのも、今年4月に米軍が地中海からシリアの空軍基地(ロシア空軍も使用)に59発の巡航ミサイル・トマホークを打ち込んでいたからだ。つまり、算盤勘定のディールしか関心がないと見られていたトランプも、オバマと異なり、いざとなったら武力行使することを示していたからである。メルケルが批判したように、もし米国が「話し合いの解決」のみを予め宣言していたなら、また日米間の軍事協力や日本海での米韓合同演習、THAADミサイルの配備などもなかったなら、北朝鮮を譲歩させることは出来なかっただろう。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム