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2017-10-10 11:04

北の核保有を受け入れられるか

鍋嶋 敬三  評論家
 朝鮮半島「核戦争」のシナリオがある。朝鮮戦争勃発(1950年6月)の4ヶ月後、北朝鮮を支援するため中国人民義勇軍が参戦、米韓両軍を中心とする国連軍は退却を重ねた。マッカーサー最高司令官は中国軍に対し原爆5発の投下を命じ、中国軍は15万人の死者を出して進撃が止まった。中国から原爆使用の強い圧力を受けたソ連は原爆を搭載した爆撃機2機をウラジオストクから発進させ、国連軍の補給基地である釜山と仁川に向かった。これに対しマッカーサーは在日米軍基地の爆撃機にウラジオストクと中国の瀋陽、ハルビンへの原爆攻撃を指令した(冷戦史の大家J.L.ガディス・エール大学教授著THE COLD WAR)。しかし、実際にはそうはならなかった。このシナリオがフィクションだったのは幸いである。戦場を朝鮮半島に限定する方針のトルーマン大統領が51年4月、中国本土の攻撃も辞さずとするマッカーサー元帥を解任したのだ。

 3年間の朝鮮戦争で米軍の死者は36,568人、中国軍60万人、朝鮮半島では民間人を含め200万人以上の犠牲者を出した。それから64年、南北朝鮮とも産業が高度に発展、巨大都市を抱える現在、第2次朝鮮戦争になれば核兵器が使われなくても、ミサイルなど高度の軍事技術の進歩と破壊力によって比較にならないほどの犠牲者と国土の荒廃が予想される。米本土に届く核弾頭付き大陸間弾道弾(ICBM)の実戦配備が秒読みの段階にあるが、「非核化」は手詰まり状態にある。北朝鮮の「核保有」にどう向き合うかについて、米国内でさまざまな意見がある。一方の極にあるのが、韓国や日本の防衛から手を引くという孤立主義的な考えだ。ケイトウ研究所のD.バンドウ上級研究員は冷戦時代でなくなって「韓国はもはや米国の安全保障上の重要な問題ではなくなった」と言う。

 米国は核の傘を含めた拡大抑止を韓国や日本に提供しているが、ソウルや東京を守るためにロサンゼルスやシアトルを危険にさらすのは「米国の国益にならない」「日本は国の安全を米国に頼ることはできない」と断言する。米国の同盟関係の責任放棄だが、「米国第一主義」のトランプ大統領を生んだ米国民の一定の支持を受けるだろう。新米国安全保障センターのR.フォンテン会長らは北朝鮮が軍縮合意に連続して違反した記録を持っており、アメやムチを使っても「核兵器をあきらめる意思がないことははっきりしている」との見立てだ。3代にわたる金体制による核追求の一貫性、キューバのミサイル危機のような他の国際危機とは異なる北朝鮮の核問題の特殊性を前提にした政策の必要性を訴えている。結局は核付きの北朝鮮との共存もやむを得ないと多くの人が思っているのではないかとの見方も示した(The Atlantic誌電子版)。しかし、日本は核武装した北朝鮮と共存できないことは明らかである。

 「現実を受け入れる時だ」と言うのはカーネギー国際平和財団のM.スウェイン上級研究員。北朝鮮を直ちに非核化する可能性は低いとして、より現実的な政策に転換すべきだと提唱している。核兵器使用の能力と意思を最小化するための長期戦略を目指すべきだと、戦略の「ギアチェンジ」を主張する。危機管理のメカニズムと信頼醸成措置によって情勢を安定させたうえで、中国も巻き込んで南北統一朝鮮の政治的地位について協議する構想を提案している。ここでは当然、在韓米軍の扱いが問題になる。最終的には日本も含めた関係国で(1)北朝鮮の非核化、(2)平和条約(3)米朝外交関係樹立というロードマップが必要になる。このようなアプローチが実を結ぶかどうかは北朝鮮の出方にかかるが、「統一朝鮮」の問題はアジアの国際秩序の行方に決定的な影響を及ぼす。さらに日本の安全保障の根本である日米安全保障条約がかかわるだけに、日本は朝鮮半島の平和構築のプロセスには外交的に必ず積極的に関与をし続けなければならない。
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