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2017-10-26 21:09

立憲民主党の未来は「改憲」にある

篠田 英朗  東京外国語大学大学院教授
 小池百合子・希望の党代表に「排除」された人々を率いて新党を立ち上げた枝野幸男氏は、50議席を確保する成果を出した。小池氏率いる希望の党は50議席を確保した。これが今回の衆議院選挙の要約であろう。衆議院で87名の議員を持っていた旧民進党勢力は、安保法制の騒乱以降の共産党・社民党との共闘路線に不満を抱え、次々と離党していった。「離党ドミノ」を防ぐために、前原誠司・民進党代表が、希望の党への相乗りを進めた。その結果、安保法制の騒乱に乗り切れていなかった民進党議員が希望の党に入ることになり、あわせて50議席を獲得した。その他、民進党系の勢力が立憲民主党として、やはり50議席ほどを獲得した。あおりを受けたのは、共産党である。これまでの21議席が約半分の11議席にまで激減した。以前には共産党に投票していた有権者が、今回は立憲民主党に投票したことが、公示前勢力と今回の選挙結果を比べれば、はっきりと見てとれる。過去には共産党に投票しながらも、今回は立憲民主党に投票した階層の核が、団塊の世代を中心とする比較的高齢であることが各種調査でわかっている。冷戦時代に「革新」系勢力に、今日でも「護憲派」に投票する有権者であると言えるかもしれない。枝野代表はそれを意識した選挙戦略を展開し、成功したといえよう。

 私は立憲民主党のロゴを見ると、60年代文化の象徴とも言える『ウルトラマン』の題字を思い出す。意図的であったかは不明だが、「瀬戸際に追いつめられたピンチで平凡な男が英雄に変身」というイメージを、枝野代表が立憲民主党の設立を通じて求めていたことは確かだろう。旧民主党で不人気だったキャラクター「民主くん」が、立憲民主党で『ビートルズ』のメンバーが愛用したレアなギターであるリッケンバッカーを抱えて再登場し、人気を博したのも、結果として、自分たちの(潜在的)支持者層を的確に把握したうえでアピールした戦術であったと言える。立憲民主党の枝野代表は、「右でも左でもない」「リベラル保守」を標榜している。「上からではなく下から」というスローガンを強調するイメージ戦略は、潜在的支持者層との整合性もあった。もし政権を目指す政党であったら、このイメージ戦略は不足感が漂う。しかし、衆議院議員総数の12%程度の議席の獲得を目指すのであれば、極めて合理的であった。今後の日本の政党政治の課題は、立憲民主党が希望の党と野党側勢力を二分することになった不安定な現状が、どのように展開していくかである。精緻な政策論を展開してもらいたいことは言うまでもないが、大きな試金石となるのは、やはり「改憲問題」であろう。「排除」の結果、排除された者たちよりも少なくなってしまった希望の党は、このまま現実主義的な政策を打ち出せる野党としての存在価値を有権者にアピールするしかない。自民党への投票者を切り崩さなければ政権を担うことはできないが、政策的に自民党に近いのは希望の党だからである。

 これに対して潜在的に切り崩せる対象が希薄なのは、立憲民主党の側である。このまま正面突破して日本社会における護憲派勢力の拡大を狙うか、何らの状況の変化を利用するのでなければ、党勢の拡大は見込めない。そうだとすると、希望の党は、自民党が失策をした場合につけこむ立場を狙えるとしても、積極的に自民党との差異を強調することが難しい立場にある。他方、立憲民主党は、状況が変化した場合に、自民党に対抗する勢力として浮上する潜在性は持っている。これに関して、選挙中に枝野幸男代表の応援演説を行って話題を集めた小林よしのり氏が、自身のブログ上で、「リベラルも満足する『立憲主義』に基づく憲法改正案を出さねば、立憲民主党は社民党化して死滅する。(中略)枝野氏は左に広げた翼に多くの宗教的護憲派を取りこんだがために、今後は苦労する局面が来るだろう」と述べている。実際、枝野氏は、もともとは改憲派で、共産党からも批判されていた人物である。「筋を通す」姿勢が維持できれば、改憲に絶対に反対ではないだろう。しかしそれでは、今回の選挙の有権者を裏切る事になり、大きなジレンマといえる。小林よしのり氏が言及している基準を満たす憲法改正案を出せれば、枝野氏は支持基盤を維持したまま、自民党投票者層をも切り崩して、政党政治家として大きな脱皮を遂げることになる。やり遂げれば、立憲民主党の実力を示す効果もあるだろうが、非常に難しいといえる。

 おそらく現実に想定できる範囲内で、枝野氏を助けるのは、逆説的ながら、早期の改憲の実現である。護憲派の有権者を失望させない立場を維持しながら、憲法問題で袋小路に陥って、内政面での政策アピールをする機会を逸することを避けるためには、立憲民主党が弱小政党であるうちに、他人が改憲を実現してしまうのが一番楽である。9条に手を付けるという「トゲ」がとれる改憲が実現「されて」しまえば、それを維持する立場に移行しながら、「護憲派」イメージを維持することが、立憲民主党にとって格段に容易になる。もっとも、あくまでも相対的に容易であるだけで、簡単に維持できる路線だということでもないだろう。何をどのようにやるのかは、新しい政党である立憲民主党が、何をどこまで実現することを目標にするか、にかかっている。今回の衆議院選挙では、政策の中身や実行という論点では、引き続き自民党の安倍晋三首相が最重要人物であることに変わりはない。しかし、日本の政党政治の未来に対しては、希望の党の小池代表がリーダーシップを失った中、枝野代表が「潜在的」キーパーソンとして浮上した選挙であったと言えるのかもしれない。
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