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2017-11-21 11:09

(連載2)変容するユーラシア国際環境と日本の対応

渡邊 啓貴  東京外国語大学教授
 ロシアとコーカサスおよび中央アジアとの関係においては、ユーラシア経済同盟(ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・アルメニア・キルギス)と集団安全保障機構(+タジキスタン)の二つが中心的な地域機構です。ウズベキスタンやアゼルバイジャンはいずれにも加盟していませんがロシアとの親しい二国間関係を保っています。中央アジア諸国は親露的かつ比較的中国にも好意的な地域であるとされています。コーカサス地域は中立・バランス外交(アゼルバイジャン)、親露(アルメニア)、ジョージア(親米欧)のような立場があります。しかし親米欧的と考えられている諸国でも対露感情は複雑で、ウクライナやジョージアでもロシアに対する親近感やソ連を懐かしむ感情の共有も無視できないと考えられています。

 最後に、EUからみたユーラシアです。まず、EUの対露姿勢についてですが、伝統的に、EUにはロシアに対するアンビバレントな感覚があります。それは対米・対中外交とのバランスをとるという政策的判断の側面もあります。ただしEUは、今世紀に入り、プーチン政権下のロシアが展開するエネルギー大国化と強硬な対外攻勢に対し警戒感を深める傾向にあります。とくにウクライナ危機以降、この傾向は顕著であり、EUは対露制裁の強化を図っています。とはいえ、例えばドイツのシュレーダー元首相がロシア石油企業の幹部であるなど、このあたりは微妙です。

 また、EUの対中姿勢についてですが、EUは2012年習近平の「中国の夢」演説以降、中国のユーラシアへの拡大政策については警戒感を高めています。なかでも中国と欧州との多国間での経済協力枠組みに「16プラス1」というものがありますが、この枠組み自体が、中国によるEU分断政策と考える向きもあり、警戒感は一層強まっています。そのような中、EUは、その近隣政策の延長として中央アジア諸国との関係緊密化に努めており、2007年の「EUと中央アジアの新しいパートナーシップのための戦略」を嚆矢として民主化推進、人権・グッドガバナンス、安全保障・テロ対策、エネルギー・インフラ運輸部門での支援協力を進めています。

 以上をまとめると、次の通りとなります。すなわちユーラシアでは、米国の後退と中国の影響力の拡大という大きなうねりの中で、プーチン・ロシアが対米欧自立外交を推進しており、戦略的な中ロ接近という状況が生じています。これに対し、EUが、東方拡大の延長上で旧ソ連圏へのアプローチを積極化させようとしています。これが現在のユーラシアで生じつつある、新たなパワーバランスの大まかな方向性です。本稿では、この地域のもう一つの大国インドおよび中東については言及しませんでしたが、この二つの地域パワーについても、目配りする必要があるでしょう。問題は、このような地政学的状況において、日本はいかなる対ユーラシア外交を展開すべきかです。現状、日本の対ユーラシア外交については、地域別にばらつきがある印象を受けます。深くコミットしている地域もあれば、ほとんど外交的接触のない地域もあるように思います。今後日本外交の重点をユーラシア全体の中でどのように配分していくかということについて、戦略的な検討が要される所以です。(おわり)
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