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2017-11-29 20:12

(連載2)日本政治の理解には「親米」「反米」を尺度とせよ

篠田 英朗  東京外国語大学大学院教授
 現代日本に、反米の右翼政党がないのは、あまりにも戦前復古主義に見えるからだろう。戦前の日本では、最後の大政翼賛会の地点で、反米右翼で政治が一元化された。反米右翼で一元化されたから、泥沼の戦争に陥ったのだ。したがって左翼的な反米主義者が、右翼的な反米主義者と大同団結するのは、全く不思議なことではない。国粋主義的と言われるか否かの相違は、反米主義的であるか否かの相違ほどには、現代日本では重要ではないのだろう。

 集団的自衛権を合憲とするか違憲とするかに関する立場の相違も結局、米国に対するスタンスに還元される。憲法学者の集団的自衛権違憲論を支えているのも結局は、「米国なんかを信用するんですか?」という情緒的訴えである。米国を信用するくらいであれば、どこまでも個別的自衛権を拡大解釈していったほうが、まだマシなのだろう。絶対に認めてはならないのは、日本国憲法に登場する「平和を愛する諸国民」に米国を含めることなのだろう。もし含めてしまったら「われらの安全と生存」が、米国への「信頼」によって成立するものになってしまう。

 米国人が作った憲法を、反米主義の武器に作り替えるという壮大なプロジェクトこそが、集団的自衛権違憲論と合憲論の背後に控えているものだ。確かに、冷戦時代後期には、談合政治的な操作で実態としての集団的自衛と、建前としての集団的自衛権違憲論が併存するようになった。しかしそのような一時的な措置が、冷戦終焉と共に賞味期限を迎えたのは、やむを得ない事だったのだ。ところが実際の日本の国家体制は、米国との同盟関係を大前提にして構築され、運用されてきている。したがって反米主義を貫くことは、革命家になることに等しい。そこで、米国を批判する「理想主義」を忘れてはいけないと訴えながら、米国と適当に仲良くなる「現実主義」も持ち合わせています、といったくらいの玉虫色の態度を正当化することに四苦八苦することになる。

 団塊の世代が去った後の時代も見据えながら、日本の野党が生き残っていくためには、「反米主義の理想を掲げながらも、現実的に米国とやっていくことくらいはする」といった生半可な態度から、「親米主義の姿勢を基本にしながら、建設的に米国と付き合っていく」という態度への切り替えを決断することが必要だろう。そのような決断さえすれば、内政面の政策に特化した政策論争で、差異や優位を見せることもできるようになる。もちろん、冷戦終焉後、四半世紀にわたって、野党はそのような決断を避け続けてきた。おそらく、今後も避け続けるのだろう。しかし結局それによって選択肢を狭められ、不利益を被るのは、次世代の日本人たちなのだから。(おわり)
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