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2018-05-24 10:09

9条改正と民主主義について考える

船田 元  衆議院議員(自由民主党)
 我が国の戦後政治の最大の課題は、憲法9条と自衛隊の存在との折り合いをどうつけるかだと言っても過言ではない。9条が謳う徹底した平和主義は、先の大戦を猛省する国民感情と、GHQの占領政策の合致により、多くの国民から歓迎された。その後、東西冷戦構造の顕在化と朝鮮戦争の勃発により、我が国は警察予備隊、保安隊、そして自衛隊を持つこととなった。俄かに自衛隊が憲法違反とする革新勢力と、そうではないとする保守勢力が国会の内外で鋭く対立し、それを乗り切るため次々と政府解釈が生み出された。その典型が武力行使の3要件であり、「自衛のための必要最小限の実力組織は戦力には当たらない」というものである。3年前の平和安全法制整備における新3要件も、この範疇を飛び出していない。

 しかし自衛隊が憲法に明記されないため、長年違憲論争が収束しないとして、安倍総理はその明記を柱とする改憲案作成を自民党に要請した。政府解釈により、ようやくその存在が認められる自衛隊は設置根拠が不安定であり、自衛隊員の士気や名誉にも関わる。自民党内ではこれに異論はなかったが、問題は戦力不保持と交戦権の否認を謳った第2項をどうするかであった。これまでの政府解釈を変えなければ、2項を削除せずに「等身大」の自衛隊を位置付けることは可能である。自衛隊を明記したらその性格が変わるのではないかという、国民の不安を払拭することもできる。一方、2項を残したまま自衛隊を明記すれば新たな矛盾が生じ、世界の常識からまた離れることになるとの有力な意見もある。

 党内の結論は2項存置で落ち着いたが、自衛隊明記という憲法改正の大目標を達成するためには、差し当たりこの方法しかない。2項を削ると自衛隊の性格が大きく変わるのではという国民の不安を増すことになるほか、集団的自衛権の行使にどのような歯止めをかけるかという、新たな議論が必要になる。これまでに積み上げられた解釈の山を、一気に崩すことは極めて困難なのだ。

 憲法9条を改正することは、我が国の安全保障議論を理想論から現実論へ移行させる重要なプロセスである。また名実ともに自衛隊を国民が承認する手続きであり、憲法における国民主権を保障するという極めて重要な意義がある。しかし「憲法9条」というと、突然、興奮のスイッチが入る左右の勢力が存在することも、また事実である。この重要な民主主義のプロセスを間違いなく進めるには、決して教条的、感情的にならず、与野党が垣根を越えて真摯に議論することが求められている。
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