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2018-06-07 12:22

米、インド太平洋の安保網構築目指す

鍋嶋 敬三  評論家
 アジアの二大緊張要因は北朝鮮の核・ミサイル脅威と中国による南シナ海の軍事化である。シンガポールで6月1日から開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)の主要テーマは当然ながらこの二つに集中した。インド洋と太平洋に挟まれた東南アジアの要衝であるこの都市国家は奇しくも6月12日、初の米朝首脳会談の開催地に選ばれ、世界の耳目が集まっている。「米朝」の行方はアジアの安全保障の将来に大きな影響を与える歴史的な意味を持つことになった。米国のD.トランプ政権はインド太平洋地域の安全保障網(ネットワーク)構築に積極的に乗り出した。これを象徴するのがハワイに司令部を置く4軍統合の太平洋軍の名称を6月1日に「インド太平洋軍」と改称したことである。

 太平洋軍は米大陸西海岸の太平洋からインド洋まで広大な地域を守備範囲としており、改称後も作戦範囲に変化はない。しかし、「インド」を付けることによって米国の戦略的意図がより明確にされた。二国間同盟だけでなく3カ国、4カ国間の協力、さらに多国間の安保協力関係を築きつつある。米国は日本、韓国、オーストラリアなどとの軍事同盟強化はもちろん、かつては対戦国だったベトナムとも友好関係を回復した。J.マティス米国防長官はゴ・スアン・リック越国防相と会談(6月2日)したが、米側はベトナム戦争後初の空母寄港を歴史的進展ととらえ、米越防衛関係の強化で合意した。これに先立つインドネシアのリャミザルド国防相との会談(5月29日、ハワイ)では同国とマレーシア、フィリピン3カ国による海洋、航空パトロールをマティス氏が賞賛した。この背景にはもちろん、東南アジア諸国が中国と領有権を争う南シナ海情勢の軍事情勢の悪化がある。

 南シナ海のほぼ全域を「九段線」で囲い込み、「自国の領土主権」とする中国の主張はハーグの国際仲裁裁判所の判決で全面否定された。しかし、中国はこれを完全に無視、スプラトリー(南沙)諸島、パラセル(西沙)諸島の岩礁を埋め立てた人工島に長距離の滑走路や格納庫を建設、軍事基地化した。最近では地対空、地対艦ミサイルの配備、戦略爆撃機の離着陸訓練を実施した。中国の戦略的な狙いは第一列島線(南西諸島からフィリピン)、次いで第二列島線(伊豆諸島から米領グアム島)へと進出して西太平洋から米軍を追い出すことだ。南シナ海においては「領土」の「実効支配」に向けて着々と実績を積み重ねている。米国はこれに対して「航行と飛行の自由作戦」を実施、最近もミサイル駆逐艦2隻を領海にあたる12カイリ以内の航行を実施(5月27日)、さらにグアム島からB52戦略爆撃機を派遣した(6月4日)ものの後手に回っている感は否めない。

 米国は東南アジア諸国連合(ASEAN)との安保関係強化に力を入れてきた。マティス米国防長官はシンガポールのリー・シェン・ロン首相やウン・エン・ヘン国防相との会談で同国空軍のグアム島での訓練の検討を約束した。米本土での訓練は既に長年の実績があるが、第二列島線のグアムでの訓練は中国をにらんだ時に意味がある。日米豪の3カ国国防相会談(6月3日、シンガポール)ではASEANへの強力な支援で一致した。3カ国はインド太平洋地域における協力で長期的な視野での戦略的行動方針の策定について合意した(米国防総省)。米国の安全保障問題専門家のP.クロ-ニン氏らは「ASEANは自由で開かれたインド太平洋の支柱」と位置付けて、急速に変化するアジア情勢の下、「米国が安全保障、外交、経済政策を含めた総合的な関与を深める最も重要な時だ」と訴えている(シンガポールのストレーツ・タイムズ紙)。これも日米豪の合意と軌を一にするものである。
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