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2018-11-06 17:00

香港「一国二制度」は終焉間近か

四方 立夫  エコノミスト
 11月1日、香港貿易発展局主催のシンポジウム「think Global, think Hong Kong」に参加した。林鄭月娥香港特別行政区行政長官が香港並びに中国本土の21に及ぶ政府、役所、企業から約200名を率いて来日し、日本側からも100を超える政府、役所、企業から経産省副大臣を含む約2,000名が出席する大イベントであった。メインシンポジウムの後に金融、技術、法務などの分科会も開催され活況を呈していた。林鄭月娥長官は、香港~マカオ~珠海を結ぶ港珠澳大橋の開通、並びに香港~広州を繋ぐ高速鉄道の開業により「広州~香港~マカオ大湾区構想」が大きく進展し、「一帯一路」において香港は中国大陸と日本の架け橋として益々重要な役割を果たすことを強調した。しかしながら、従来どの行政長官も強調していた「一国二制度」に関する言及はなく、ビンセント・ロー香港貿易発展局会長を始め、他の主な香港側の登壇者の発言ももっぱら「中国大陸との緊密性」を強調するものであった。

 1997年香港返還式に招待された際、董建華行政長官が繰り返し「一国二制度は50年間継続する」と述べていたことを思うと隔世の感があり、もはや「一国二制度」は形骸化し、香港は名実ともに中国の一部となったしまったとの印象を抱かざるを得なかった。林鄭月娥長官は香港が人民元の金融センターであることを指摘し、日本の新興企業が香港で新たに技術、サービス、ベンチャーキャピタル等の分野において、ビジネスチャンスを見出すよう促していたことも印象的であった。まさに、米中貿易戦争が事実上の先端技術を巡る覇権争いとなり長期化が予想され、また「一帯一路」に対する「受恵国」の反発が強まる中、中国が日本の技術、資金、そして高評価を利用しようとする戦略が見て取れる。

 林鄭月娥長官は河野外相の招きにより長官としては初来日とのことであったが、2014年の反政府デモに強硬姿勢で臨んだ同氏がスピーチの冒頭、満面の笑顔で日本語で挨拶し、さらに日本式のお辞儀までして会場を沸かせたことは、1978年の日中平和友好条約締結後、中国から多くのデリゲーションが来日し、皆、異口同音に「日本人は中国の老朋友である」、「中国人は井戸を掘った人のことを忘れない」と繰り返し日本人の琴線に触れるパフォーマンスを行ったことを思い起こさせるものであった。もはや香港は後戻りできない所まで来ており、日本としては「新しい香港」との付き合い方を再検討すべき時である。
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