国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2018-11-07 11:58

(連載1)プーチン氏の平和条約提言の問題点

袴田 茂樹  日本国際フォーラム評議員
 10月18日にロシアのソチでプーチン氏と国内外の専門家とのヴァルダイ会議が開催された。私が注目したのは、9月12日の東方経済フォーラム(ウラジオストク)での平和条約に関するプーチン提案についての彼自身の説明だ。わが国のメディアは、この時のプーチン発言については簡単に紹介しているが、それが我が国にとって如何なる意味を有しているか、また論理的に如何に無理な発言をしているか、といった点の分析や指摘はほとんどなされていない。本稿で9月の東方経済フォーラムでの平和条約に関するプーチン発言を、プーチン自身がどのように説明しているか、また彼の説明の問題点を指摘しておきたい。

 ヴァルダイ会議で日本の質問者はプーチン氏に次のように尋ねている。私は2年前に「近い将来、つまりこの2-3年の間における平和条約締結はどれほど現実的か」と質問したが、あなたは「期間を決めるのは不可能だし有害だ。そのための信頼関係が不十分だからだ」と答えた。最近あなたは、今年末までに平和条約を締結しようと提案した。この2年の間に信頼関係が出来たということか。それとも、その提案は何か別のことを意味しているのか。

 これに対しプーチン氏は、まずロシアは北方領土への墓参の簡易化など信頼を高める努力をしているのに、日本側が両国の信頼関係を壊しているとして、シリアやクリミア問題などで日本が対露制裁に加わったことを非難した。遠く離れたシリアやクリミアと日本は何の関係があるのか、と(Где Сирия, где Крым, где Япония?)。そして、それでもロシアは日本との領土対話もコンタクトも拒否しない、と恩を着せるように述べている。次いで、ロシアと中国との間では友好条約が締結され(中露善隣友好協力条約2001.7)、友好関係が構築されたので、(2004年に)領土問題が解決したとした。この例を挙げてプーチンは「まず平和条約に署名しようではないか。そして信頼関係の水準を高めて、この領土問題についてさらに議論しようではないか」と述べている。以下、このプーチン発言の問題点を指摘する。

 1.日本側がロシアとの信頼関係を壊している理由として、日本が対露制裁に加わっていることを挙げ、「はるか離れたクリミアなどと日本は何の関係があるのか」と非難している。法律の専門家を自称するプーチンとしては、信じられない発言だ。つまり、対露制裁は、ロシアが国家主権侵害という国際秩序の基本を侵したことに対する国際的な制裁であり、日本とクリミアの距離の近さや結びつきの深さとは無関係だ。それは、サウジアラビアのジャーナリスト殺害に関して、地理的な位置や被害者との関連とは関係なく、世界各国が同国の行動を批判していることと同じだ。ロシアは一ジャーナリストの殺害とは比較にならないほど深刻な行動をとったので、国際制裁の対象となった。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム