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2019-01-07 11:10

自由貿易世界標準へ主導権発揮を

鍋嶋 敬三 評論家
 日本は自由で開かれた貿易・投資システムの世界標準作りの主導権をさらに強めるべきである。環太平洋経済連携協定(TPP11)が2018年12月30日発効した。日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)も2019年2月1日発効する。両者合わせて世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大経済圏の発足で、日本にとってはGDPを約13兆円押し上げる経済効果を生み出す。当初12カ国によるTPPは米国のトランプ政権による離脱で発足が危ぶまれたが、日本主導のTPP11交渉が難航の末合意に達した。関税の撤廃・軽減、投資の自由化、技術移転の強制禁止などが主な内容で日本、シンガポール、メキシコ、カナダ、ニュージーランド、オーストラリア6カ国の批准で発効した。ベトナムも1月14日に発効する。残るチリ、ペルー、ブルネイも近く期待されるが、マレーシアは国内調整が難航している。

 TPP11カ国の人口は約5億人に達し、参加国がさらに広がれば国際標準になり得る。TPP交渉担当の茂木敏充経済財政・再生相は「保護主義台頭の中で新しいルールを確立した」とその意義を強調した。日EU・EPAは2018年7月17日署名された。安倍晋三首相は当時「自由貿易の旗手として世界をリードする政治的意義を示す」と語っている。日欧はEPAとともに包括的な政治協力をうたった戦略的パートナーシップ協定(SPA)も結んだ。第二次世界大戦後の米欧民主主義国家によるリベラルな価値観に基づく国際秩序を守る重要な役割を日本と欧州が担うことになった。TPP11も日EU・EPAいずれもD.トランプ大統領による米国第一主義、国家資本主義の中国による覇権を目指す国際秩序の再編の動きに対して、自由貿易体制を守る「防波堤」としての役割が生まれてきた。

 TPPはもともとオバマ前政権の下で米国も合意していた高い水準の貿易・投資のルールを定めたものだ。トランプ政権による離脱に対しては米国内で強い批判がある。前政権のA.ブリンケン元国務副長官とブルッキングス研究所のR.ケーガン上級研究員は元旦の米ワシントン・ポスト紙への寄稿で「米国第一主義」を批判、戦後70年にわたる自由貿易体制が貧困をなくし世界に平和と安定をもたらしたとして、「TPPのような貿易協定から離脱すれば中国のような国に勝利を渡してしまう。米国が手を引けば、世界貿易も技術革新も彼らの利益になるように決まるのだ」と保護主義を厳しく戒めた。高い水準のTPP11への参加を希望しているタイ、インドネシア、英国なども加われば経済的、政治的利益が世界に広がる。難航している東南アジア諸国連合(ASEAN)など16カ国による東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定交渉で、自国に有利な低い水準でまとめようとする中国などへの強い牽(けん)制になることは間違いない。

 アジアをはじめ太平洋諸国を巻き込んだTPPの確立と広がりを前にして、中国が「自由貿易の旗手」の旗振り役を演じることはもはや出来なくなったという外交上のインパクトは大きいのである。日本はトランプ政権と年明け早々から物品貿易協定(TAG)交渉を控える。既に米国が合意していたTPP以上の対米譲歩をすべきではない。米国の「産業界第一」のごり押しに屈することは、TPP11の締約国に対する「裏切り」行為になる。TPP11はトランプ政権の対日交渉に対する「防波堤」にもなるのである。TPP11は知的財産分野の凍結で米国の復帰に道を空けている。日EU・EPAとTPP11で日本ー東南アジアー南北米大陸ー欧州をつなぐ自由貿易・投資の大経済圏が広がる。1月19日にはTPPへの新規加盟への道を開く閣僚会合が東京で開かれる。日本は世界標準作りに一層のリーダーシップを発揮すべき重い責任を負っているのだ。
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