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2019-02-12 12:25

米朝サミットの「失敗」に備えよ

鍋嶋 敬三 評論家
 トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長との第2回首脳会談が2月27,28日、ベトナムのハノイで開かれるが、本来目指した「包括的で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)」に向けた劇的な進展は見込めない。どのような結果であろうとも、トランプ氏は「成果があった」と誇示するだろう。議会の「ねじれ」現象で政府機能の一部停止など内政が行き詰まっている大統領にとって対北朝鮮外交こそ唯一成果をアピールできるテーマであり、1年半後に迫った大統領選挙で再選を確実にするための政治ショーだからである。しかし、世界は「失敗」に備えなければならない。2018年6月のシンガポール会談に続くこの機会に「完全な非核化」に向けて具体的なロードマップを示せなければ、核・ミサイル危機はより深刻化する。北朝鮮による小出しの「非核化措置」や体制保証の見返りにトランプ氏が在韓米軍の縮小を約束するならば、東アジアの安全保障環境はがらりと変わってしまうのである。

 D.コーツ米国家情報長官が1月29日、上院情報特別委員会での証言で「北朝鮮は大量破壊兵器(WMD)の能力を持ち続けるつもりだ。核兵器とその生産能力を完全に放棄することは考えられない」と米政府としての公式評価を明言した。その理由として「北朝鮮の指導者が核兵器こそが体制生き残りに不可欠と考えているからだ」と断言している。ハノイ会談をどのような視点で見るべきか?目先の小さな「成果」にとらわれてはならない。アジアの戦略環境に何をもたらすかが最大の問題である。北朝鮮の核保有を前提に、日米中露がどのようにかかわっていくかという新たな「宿題」が突きつけられた。日本は中長期的な安全保障政策を根本的に検討しなければならず、動き出したアジアの国際秩序の変動に主体的に関与する姿勢が不可欠である。

 米朝サミットを前に米国のナショナル・インタレスト誌(2月6日電子版)が戦略、外交問題専門家76人に予測を聞いた。「ツキジデスの罠」を提唱したハーバード大学のG.アリソン教授は米国の国益にとっての重要度から、米領土での核爆発や米中を引き込む第2次朝鮮戦争の防止ーなどを挙げたが、同盟国を目標にした核・ミサイル保有はテロ集団への核兵器売却に次ぐ5番目の低さである。日本や韓国に対する核・ミサイルの廃止については米国の優先度が低い。また、同大学のJ.ナイ教授は日韓との同盟関係を弱めるような「ごまかしのブレークスルー(飛躍的進展)」の危険があると警告した。元国務次官補で核問題6カ国協議の元首席代表C.ヒル氏は「ブレークスルーの見込みはほとんどない」と突き放した見方をしてる。

 朝鮮問題や安全保障政策に詳しい道下徳成・政策研究大学院大学教授は「悪い平和」シナリオとして、北朝鮮の「非核化」約束へのお返しとして在韓米軍の大幅削減を挙げた。これは朝鮮半島からの米軍の一方的な撤退になり、さらに懸念されるのは文在寅韓国大統領が米国の安全保障コミットメントの削減を受け入れることだとしている。このシナリオが実現すれば中国がその空白を埋め、米国や日本にとって戦略的環境を本格的に損なうと警鐘を鳴らした。P.クローニン・ハドソン研究所部長は過去と同じように今回も失敗する可能性を指摘した。国務省では随一のアジア専門家との評価が高かったE.リビア・ブルッキングス研究所上級研究員は米国、韓国、中国、ロシアはともに核武装した北朝鮮との共存を受け入れる方向で動いているとの見通しを示した。同氏によれば、ポンペイオ国務長官は米国の首脳外交を米国民へのリスクを軽減することへ転換し、米本土への脅威となる北朝鮮のミサイルの排除に照準を合わせた。これは同盟国の日本や韓国、米国の在外基地に対する脅威をなくすことにはならない。当初の「非核化」の目標が達成できないことをワシントンが認識した反映だとリビア氏は見ている。米朝首脳外交は本来目指した「CVID」にはほど遠い方向へ動きつつある。
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