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2019-03-21 19:51

(連載1)第2回米朝首脳会談を振り返る

松川 るい 参議院議員(自由民主党)
 2月27日、28日に開催された第2回米朝首脳会談は、結局合意なしに終わった。正直、この結果は予想外だった。今回の首脳会談前の準備の協議は、ポンペオ訪朝が2回、キム・ヨンチョル訪米1回、ビーガン訪朝1回の4回だけなので、いわゆるビッグディールというか大きな成果が出るとははなから思っていなかったが、部分的合意(スモールディール)はあるのだろうと思っていた。もともとは、米国も北朝鮮もそのはずだったと思う。そうでなければ、わざわざ金正恩は2日もかけてベトナムに来ないし、トランプだってわざわざ合意の見込みもないのに意気揚々とベトナムに乗り込まない。2人とも、騙された気分で帰路についたのではないかと推察する。特に金正恩委員長は落胆が大きかっただろうし、今後の戦略をどう見直したものか考えあぐねているに違いない。
 
 なぜ今回の結果を予想しなかったのかといえば、(1)米国が北朝鮮を非核化させるというコミットメントは私の予想よりもずっと高かった、(2)双方の立場のギャップが大きいことを事前にわかっていながら首脳に成果なしの可能性の高い交渉をさせることを(米朝ともだが特に北朝鮮の側が)許容しているとは思わなかったということにある。全ての情報が明らかになっているわけではないが、米朝の発表を総合してざっくりいえば、北朝鮮は寧辺核施設の廃棄(米国査察の下)と引き換えに実質的には殆ど全てに当たる安保理制裁解除を求めた(件数でいえば11本中の5本)のに対し、米国は安理制裁解除というなら、寧辺廃棄のみでは無理で少なくとももう一つの施設(カンソン?)を含めよと主張したが北朝鮮は寧辺以外を廃棄する用意がなかったとのこと。つまり、互いがオファーしたディール内容が見合わなかったということだ。ただし、それはそのとおりなのだが、もう少し深い意図もあると思う。
 
 今回米朝が合意できなかった、というか、米国が妥協せずに交渉のテーブルから立ち去った本質的理由というべきだと思うが、それは、米国(というかトランプ大統領)が、北朝鮮が全面的な核放棄をする意思がないことを改めて思い知ったからだと思う。今回、北朝鮮は、安保理制裁の全部解除と寧辺廃棄という「高めのタマ」を投げてみたが、これは「打ち出し」だったであろうから、当然、5本全部じゃなくてもいいと妥協案は交渉の中で提案した可能性は高いし、ディールだけ考えれば、米国は寧辺廃棄に見合うレベルの一部制裁解除で合意するという手もあったと思う。が、そうせずに席をたったのは、北朝鮮が全面核放棄を最終的にする覚悟がないことがわかったために(または、米国が許容できるレベルの核削減をする覚悟がないとわかったために)、やはり、改めてその意思をまず砕き北朝鮮に核放棄を覚悟させねばならないと考えたからだろう。核放棄意思がない場合、段階的な制裁解除は非核化プロセスを進めることにはならず、結局、核温存を許すことになるからである。
 
 他方、北朝鮮からすれば、米国の脅威にならないレベルであれば、核保有を事実上容認させることは不可能ではないと思っていたのではないか。それが透けて見えてしまったのだ。(事前協議の段階では北朝鮮をしてそのように思わせる態度が米側にあったのかもしれない。そうだとすると、米側が当日になって態度硬化したことになるが。)「(米朝では)『非核化』の意味が違ったようだ」ということをトランプ大統領が記者会見で言っていたのはそういう意味だ。もともと、最初、米国はall for all(北朝鮮が全ての核ミサイルを放棄すれば、制裁解除から平和条約から経済援助までの全てを与える)という立場だった。しかし、それでは上手くいかないことが分かったため、北朝鮮が主張する、段階的非核化というか行動対行動という方法論に乗ったのだが、あくまでも目的は北朝鮮の保有する全ての核兵器の放棄だった。つまり、廃棄自体は段階的であったとしても、究極的に行きつく先は北朝鮮からの核兵器の完全な除去ということだ。行きつく先が同じであれば、そこに行きつくための方法論が、all for allだろうと部分合意の段階的積み重ねであろうとそう大きな問題ではない、所詮は方法論だ。しかし、目指すところが異なるとすれば、ことは厄介だ。
 
 事前の様々な分析において、米国は自国の安全さえ確保されればよいので安易な合意をするのではないかとの懸念があったが、今回、米国は北朝鮮を非核化する強い意思があることがわかったことは良かった。また、制裁が効いているということもよくわかった。もっとも、今回のトランプ大統領の記者会見においても、「核兵器1つたりとも認めないということか」と聞かれ、「交渉に影響するので答えたくない」と述べているとおり、米国が北朝鮮の最後の一つの核兵器が除去されることまで必要と考えているかどうかはわからないところはある。少なくとも、北朝鮮がやる用意のある核削減レベルが、米国の許容範囲でなかったことは確かだろう。(つづく)
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