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2019-03-29 21:54

衰退する日本共産党

加藤 成一 元弁護士
 日本共産党の党勢が衰退している。公安調査庁の資料などによれば、2010年には約41万人いた党員が、2017年には約30万人(党大会公表)にまで減少した。党員の平均年齢も2014年には57.2歳まで高齢化した。若い世代の入党者が増えず、党員減少は構造的な問題と思われる。党員減少は選挙での得票数や、機関紙「しんぶん赤旗」の発行部数、ひいては党財政にも影響すると言えよう。「しんぶん赤旗」の発行部数は1980年には355万部であったが、2017年には113万部(毎日新聞)にまで減少している。国政選挙での得票数を見ても1996年の総選挙では比例で726万票、1998年の参議院選挙では比例で819万票を獲得したが、2016年の参議院選挙では比例で601万票、2017年の総選挙では比例で440万票に減らしている。このように、日本共産党は党員の減少と高齢化、機関紙の減紙、国政選挙での得票数の減少などに直面しており、党勢は衰退していると言えよう。

 党勢衰退の歴史的社会的背景としては、日本をはじめ先進資本主義諸国における資本主義の発展・高度化が最大の原因と考えられる。すなわち、(1)カール・マルクスが、主著「資本論」やエンゲルスとの共著「共産党宣言」などで予言した労働者階級の「窮乏化」が起こらず、むしろ、日本をはじめ先進資本主義諸国では労働者の名目賃金が不断に上昇していること、(2)先進資本主義諸国では社会保険や年金・医療・介護などの社会保障制度が整備され、日本でも社会保障関係費が国家予算の3割を超えていること、(3)不断の技術革新による資本主義的生産様式の発展により、専門的・技術的就労者などの、ホワイトカラー層(中間層)が増加したため、労働者としての階級意識が希薄となり、マルクスが予言した、いわゆる資本家と労働者の対立による「階級闘争」の結果としての社会主義革命の可能性が著しく減少したこと、(5)加えて、日本をはじめ先進資本主義諸国では、「暴力」による社会主義革命ではなく、「選挙」による政権交代のみを認める議会制民主主義制度が定着していること、などが指摘できよう。

 このように見てくると、日本をはじめ先進資本主義諸国が社会保障制度の整備などにより事実上の「福祉国家化」した現在においては、いわゆる労働者階級を含む国民の大多数が、「暴力」は勿論のこと、「選挙」によって、「自由と民主主義」を享受する現存の資本主義体制を打倒し、「プロレタリアート独裁」を原理とする「社会主義・共産主義社会」の実現を目指すという、政治的社会的必然性は極めて乏しいと言えよう。したがって、今も、党綱領(2004年採択)や党規約(2000年改定)で古色蒼然とした、プロレタリアート独裁と民主集中制を原理とする「科学的社会主義」(マルクス・レーニン主義)を理論的な基礎とし、労働者階級を中心とした「社会主義・共産主義社会」の実現を目指す日本共産党の衰退は、決して偶然ではなく歴史的必然であると言えよう。なぜなら、共産党の衰退は日本共産党だけではなく、先進資本主義諸国の共産党に共通の、世界的な現象であり傾向だからである。フランス共産党は第二次大戦後同国最大規模の政党に成長し、1946年には182人の議員を擁し、旧ソ連から援助を受けていた。しかし、1991年のソ連崩壊で大きな打撃を受け、1979年の党員数76万人(党公表)から2017年には僅かに5万人にまで減少し、議席数も15人と弱体化し政治的影響力は微々たるものとなった。同党のピエール・ローレン総書記は、党名の変更や新党の立ち上げも辞さないと述べた(2017年6月26日付け仏日刊紙ル・パリジャン)。イタリア共産党は共産主義イデオロギーを放棄し、左翼民主党となった。オランダ共産党やフィンランド共産党は自主的に解散した。スウエーデン、イギリスなどの共産党も共産主義イデオロギーを放棄した。スペイン共産党も弱体化し2016年の総選挙では、僅かに上院1議席、下院5議席に過ぎない。

 日本共産党は、1970年代から統一戦線の勢力により政権を樹立し、安保条約廃棄・非同盟中立・自衛隊解消を行う「民主連合政府」構想を主張したが、他の野党は同構想に賛同せず、50年近く経過した現在に至るも実現する兆候すらない。さらに、2015年には当時の民主党などに呼びかけ、野党の選挙協力により自民党政権を打倒し、政権奪取を狙う「国民連合政権」構想を提唱したが、他の野党は共産党の政権構想に賛同せず、実現していない。また、「自共対決」を盛んに喧伝した時代もあったが、党の実力が伴わないため説得力がなく、国民に浸透しなかった。このように、他の野党が賛同協力しないため、共産党が提唱した政権構想はことごとく失敗し実現していない。その根本的原因は、日本において、現存する資本主義体制を打倒して、「社会主義・共産主義社会」を実現する政治的社会的必然性や国民的意識が極めて乏しいにもかかわらず、今なお共産主義イデオロギーである「科学的社会主義」に基づき「社会主義・共産主義社会」の実現を目指す「党綱領」や「党規約」を温存し踏襲しているからである。このため、他の野党の対共産党警戒心や恐怖心が解消されないのである。日本共産党が共産主義イデオロギーである「科学的社会主義」(マルクス・レーニン主義)を完全に放棄しない限り孤立し、その衰退は歴史的必然であろう。
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