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2019-05-17 11:19

「領土問題」では知恵の無い者は沈黙すべし

伊藤 洋 山梨大学名誉教授
 「北方四島ビザなし交流の訪問団の一員として国後島を訪問した日本維新の会の丸山穂高衆院議員(35)=大阪19区=が11日夜、滞在先の国後島古釜布(ふるかまっぷ)で元島民の男性に対し、北方領土問題について『戦争をしないとどうしようもなくないか』『(戦争をしないと)取り返せない』などと発言し、トラブルになった」(『毎日新聞』2019年5月14日付)。丸山議員は、とかく酒癖が悪いこと、代議士以前に未熟者として夙に有名だが、こういう未熟者を衆院沖縄北方問題特別委員に推挙していた政党と、この者を選んだ選挙民にすべての責任があるといえよう。

 ところで、この「事件」の現場は、「ウラジミール・シンゾー」と呼び合う日露首脳の「友情?」の証として「北方(四島)ビザ無し訪問」という名の薄手のガラス器のような壊れやすい提灯行事の、ムネオハウスで開かれた宴会の場だったらしい。日本側が使う「北方領土」や「里帰り」などは、ロシア側にとっては不愉快で聞きたくない用語。それでもこのイベントは、日本からの巨額の投資を期待するプーチン政権とロシア人島民の我慢で実現したものに違いない。折角、日露両首脳が作った薄手のガラス器を傍若無人に壊してしまったというのが、この酔っぱらい議員の仕儀だったということだ。それにしても、「領土問題」というもの、酔っぱらい議員の戯れ言は論外としても、これを優勝劣敗をもって「解決」しようとすれば、これは「戦争」しかない。そんなことは大航海時代以来帝国主義の歴史を概観するまでもなく、今もなお世界各地において起こっている現実である。そして、その唯一の解決手段である「戦争」によって莫大な数の死者を出しながらも、なお解決できずにいるのがこの「領土問題」である。

 この国には、差し当たってこの「北方領土(ロシア名:キリル諸島)」をはじめとして「尖閣諸島(中国名:釣魚列島)」、「竹島(韓国名:独島)」など、第二次世界大戦後に喉元に刺さったままの領土問題が横たわる。(建て付けは違うかもしれないが、日米地位協定で最恵国待遇の米軍による北海道を除く日本列島全域の軍事基地、とりわけ沖縄に密集する軍事基地群は、斜体で書いた日米領土問題でもある)これらを上記丸山議員の言に従って解決するというのであれば、ロシアは言うに及ばず、中国とも韓国とも、また米国とも戦争をしなくてはならなくなる。この男は、はたして戦争がどういうものであるか知っているのであろうか?

 1978年10月25日、訪日中の中国の指導者鄧小平副主席は、東京で尖閣問題について「我々の世代では知恵が足りなくて解決できないかもしれないが、次の世代には、我々よりももっと知恵があり、この問題を解決できるだろう。この問題は大局から見ることが必要だと」と語ったという。こういうのを「知恵」というのだが、知恵者の鄧氏が言うようになお「知恵」のある人たちが現れるまで我慢強く待つこと、領土問題を解決するとはそういうことなのだろう。知恵の無い者が、己の無能を知らないまま、あるいは力ずくで解決しようとするところに争いが生まれる。「北方領土」問題は、これを「北方二島」に矮小化してしまった安倍外交も知恵無しだが、戦争しかないという件の男のような者も、成るものを成らなくするだけのことで知恵とは極北の位置にある。微妙な外交問題では知恵の無い者はただ沈黙することだけが一番正しい行動である。丸山議員は即刻議員辞職すべきだ。
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