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2019-10-04 11:45

北朝鮮への圧力強化が必要だ

鍋嶋 敬三 評論家
 北朝鮮が10月2日、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLMB)「北極星3」の試射に成功した。「ロフテッド軌道」で発射され、最高高度910kmに達し、450kmを飛行した(韓国軍)とされる。通常の打ち上げ角度では最大2500kmを飛ぶ「准中距離弾道ミサイル」の可能性がある(河野太郎防衛相)。2月のハノイ米朝首脳会談の決裂以降、北朝鮮は5月から9月まで10回にわたり短距離弾道ミサイルの実験を続けてきた。11回目に当たる今回の実験は質的な転換を見せるものとなった。米朝核交渉が行き詰まる中、繰り返した実験で核兵器運搬手段としての弾道ミサイルは総合的な技術力を向上させ、潜水艦に搭載されればグアムや米本土をも狙える。
 
 北朝鮮の意図はどこにあるのか? 短距離ミサイルでも国連安全保障理事会決議違反であるにもかかわらず、トランプ米大統領が金正恩委員長との会談では「協議していない」として、「問題にしない」態度を見せ続けた。交渉成果を急ぐトランプ氏の足元を北朝鮮は見ていたのである。短距離であってもミサイルの精度、飛距離を延ばす技術力の向上は可能だ。「北極星1」型以来3年ぶりだが、この間に水中発射の技術も磨いたのである。北朝鮮の狙いが対米交渉力の強化にあることは明らかだ。北朝鮮は発射直前の10月1日に米朝実務協議を5日に行うことを発表。協議の北朝鮮首席代表は9月20日の談話で、対北最強硬派のボルトン大統領補佐官をトランプ氏が解任したことを評価した上、非核化の段階的工程に応じた見返りを要求した。協議直前の新型ミサイル発射は対米交渉のテコにしようという思惑が明白である。
 
 国連のグテレス事務総長は「安保理決議の新たな違反」として強く懸念する声明を発表したが、トランプ大統領は北朝鮮との対話姿勢に変わりがないことを示した。米国務省は「安保理決議の順守」を北朝鮮に求めたが、強い調子の非難を避けている。これはボルトン氏解任でホワイトハウスの国家安全保障体制が揺らぎ、北朝鮮政策が不透明になっていることの反映かもしれない。ボルトン氏は北朝鮮制裁解除と引き替えに核計画の完全放棄をさせる「リビア方式」を主張してトランプ大統領と対立、解任された。核計画を放棄したリビアのカダフィ大佐の末路を見て北朝鮮は同方式に徹底的に抵抗した。ボルトン氏の解任を北朝鮮が高く「評価」したゆえんである。そのボルトン氏が解任後はじめて口を開き、米朝交渉が「失敗に終わる」公算が強いことを示唆した(ワシントン・ポスト紙)。同氏によれば、「北朝鮮が行うどんな交渉も信頼する根拠がない」からである。25年に及ぶ米朝核交渉は失敗の連続であった。「核保有国」を実現しようとする金王朝3代にわたる野望実現に向けて着々と(実に辛抱強く、と言うか)進めてきたのがその歴史である。
 
 「核の朝鮮半島」という悪夢に直面する日本は米朝交渉と無縁ではあり得ない。6ヶ国協議体制の一員でもあったが、米政権の対北朝鮮政策に翻弄もされた。2008年10月には当時のブッシュ政権が日本人拉致問題を重要視する日本の意向を無視して「テロ支援国家指定」の解除を決め、日米同盟関係が漂流した。安倍晋三首相とトランプ大統領の首脳会談(9月25日、ニューヨーク)は、貿易交渉の決着が日米間最大の課題だったという事情があるにせよ、安全保障の最大の懸案である北朝鮮の核・ミサイル問題で、今後の展開も含め日米間の戦略調整で突っ込んだ意見交換がなされたという報告はない。来年の大統領選挙を前に外交の成果を急ぎたいトランプ大統領が安易に北朝鮮と妥協する事態は日本として避けなければならない。北朝鮮に対する圧力を緩めず、さらに強めるようトランプ氏への手綱を締める必要がある。西側主要国でそれができるのはトランプ氏との信頼関係を誇示する安倍首相を置いてない。安倍氏の手綱捌(さば)きが問われるのである。
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