国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2019-10-28 10:28

国の競争力向上に何が必要か?

鍋嶋 敬三 評論家
 自動車各社の技術開発力を示す東京モーターショーが10月24日開幕した。人工知能(AI)を取り入れた自動運転技術や電気自動車(EV)の商品化が目玉になった。次世代技術の実用化時代に入り、日本メーカー各社は米国、欧州、中国との激しい競争にさらされている。裾野の広い自動車産業の盛衰は国の競争力に直結する。スイスに本拠を置く世界経済フォーラム(WEF)が10月上旬、2019年版世界競争力報告書(The Global Competitiveness Report 2019)を公表した。世界141ヶ国・地域の競争力を社会基盤(インフラ)整備、マクロ経済の安定性、労働市場、金融システム、企業の活力、技術革新力など12項目について評価、平均値を求めて順位を決めた。
 
 日本は国別評価で6位(前年は5位)。強みは長寿に象徴される健康(1位)をはじめ、インフラ整備(5位)やマクロ経済の安定性などが挙げられる。金融部門も安定し、市場規模の大きさの利益もあると分析された。しかし、弱点も多く強みがもたらすプラス効果を相殺している。労働者の平均教育期間が世界でも上位にもかかわらず、批判的な考え方を教える上で不適切なところが指摘された。創造力を養う自由な教育システムこそが技術革新(イノベーション)に直結する。また、硬直した企業文化や労働者の多様性の低さが企業活力や技術革新力を阻害していると判定されている。日本は競争力に直結する技術革新に貢献する労働政策、教育政策の抜本的な見直しを迫られているのである。
 
 地域別ではアジア太平洋がもっとも競争力があるとされ欧州、北米がこれに続く。シンガポールが米国を抜いて1位に躍り出た。12項目すべてで経済協力開発機構(OECD)の平均値を上回った。特にインフラ整備は道路、港湾、空港の運用、海上輸送の接続の良さから1位を誇り、北米-アジア-中東-欧州を結ぶ海上、航空路のハブ(中心)になっている。シンガポールがマラッカ海峡を抑える要衝の利点を生かし24時間稼働するインフラ整備をしてきた効果である。この点で日本は全く遅れをとっている。政治、行政、労使関係を含めた産業政策の硬直性の故である。中国は28位につけた。強みはなんといっても市場規模の大きさ(1位)だ。マクロ経済の安定性、技術革新力を伸ばしていることも評価された。しかし、過剰雇用、緊張する労使関係など労働市場がうまく機能していない弱点が足を引っ張っている。
 
 米国は順位を一つ下げて2位になったものの、他の先進国に比べて経済成長率は高い。「世界で最も競争力のある経済の一つ」の評価を維持した。それは①技術革新の中心地、②企業の活力、③最も活力に満ちた金融システムの効果である。ペンス副大統領は10月24日の政策演説で、トランプ政権下で法人税減税や規制緩和の実行によって「米国経済は史上最高だ」と誇示したものである。論壇で「米国衰退論」が取り上げられて久しい。中国やインドなどの新興国の急速な発展で米国の地位が相対的に下がったのは事実だ。それよりもむしろ、オバマ政権時代から世界の安全保障、強権主義国家の人権問題などに対する政治的関与の姿勢を弱めた。さらに、トランプ政権の登場後は大統領自身による不確実性と、「米国第一主義」に固執して世界の指導国家としての責任を放棄する姿勢が第二次大戦後、米国自身が主導してきたリベラルな国際秩序の混乱と揺らぎをもたらしたことが大きい。「衰退論」に振り回されて米国の経済的な実力を軽視することは、日本にとって国益を損なう以外の何物でもない。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム