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2019-11-05 18:54

(連載1)緒方貞子氏を追悼することの真の意味

篠田 英朗 東京外国語大学大学院教授
 緒方貞子・元国連難民高等弁務官が10月29日に他界した。緒方氏の業績について、私がここで書く必要はないだろう。私は学生時代に「難民を助ける会」というNGOに出入りしていた。そのつながりで1991年湾岸戦争後のクルド難民支援の現場に行ったのは、私にとって最初に体験した国際的な緊急人道援助の現場だった。
 
 その当時、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の存在感は、圧倒的だった。数ある国連機関の中でも、まさしく圧倒的だったのである。大学を卒業する頃の私には、UNHCR職員の全てが格好良く見えた。そのUNHCRを指導する緒方氏は、テレビ等で見るたびにほれぼれした。それほど格好が良かった。逝去の報道以降、SNSを開けば緒方氏を悼むメッセージが多数見られるが、いずれの追悼の発信ももっともな気持ちにさせられる敬意に満ちたものばかりだ。
 
 一方で、私自身はそうしたメッセージを出す気にはならない。多感であった20歳代がUNHCRで緒方氏が活躍した時期と重なっているためということもあるが、思い入れが強いからこそ、私は安直にSNSで「緒方氏を悼む」などと書く気になれないのだ。緒方氏は、不遇の境遇にあった難民・避難民のために心を砕いていた。疑いのない事実だ。だが、そのことだけを描写し続けるのでは、全然足りないと思う。現代の世界の難民・避難民数は7000万人をこえており、緒方氏の時代の数をはるかに上回る。にもかかわらず、緒方氏の人生を賭けた問題の現状が言及されないというのは、どうなっているのか。緒方氏を悼む際には、そのことにもふれるべきだろう。
 
 しかも、それだけではない。私にとって、緒方氏について一番印象に残っているのは、UNHCR職員の現場での殉職に直面し怒りの声を上げていた姿だ。追悼集会で「Enough is Enough
(もう十分だ)」と叫んでいた緒方氏の姿だ。最高責任者が職員の殉職に対して見せた、あの真剣な怒りに接すればこそ、UNHCR職員は、またあらためて危険地での職務に向かって行った。(つづく)
 
 
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