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2019-11-25 15:14

(連載1)GSOMIA失効回避:「腐っても鯛」の米国と一部のリアリズムはあった文在寅大統領

松川 るい 参議院議員
 GSOMIAの失効が回避された。失効6時間前の決定だった。まずは、米韓同盟が棄損されることが回避されて良かった。中国やロシアに日米韓安保協力破綻しているという誤ったメッセージをギリギリのところで与えずに済んだ。(とはいえ、韓国が一番のウィークリンクであることは既に明らかになってしまったという意味では、一定のdamage is doneではある。)GSOMIAは日米韓安保協力の象徴であるが、米国がエスパー国防長官を送って文在寅大統領に維持を迫ったように、日韓関係とか日米韓安保協力以上に、もはや米韓同盟の問題になっていたと言ってよい。
 
 もし韓国が米国の必死の制止を振り切ってGSOMIAを失効させていたら、米国からの激烈な反応を招いたことは必至であり、前年度の5倍を吹っ掛けられている在韓米軍駐留経費交渉で米国はより厳しい立場で迫ってくることとなったであろうし、交渉が進展しない場合には、在韓米軍の一部撤収もあり得たと思う。もともと在韓米軍については戦略的意義よりも金がかかりすぎることに懐疑的なトランプ大統領である。そのような事態となった場合、周辺国、特に中国や北朝鮮がその事態をどのように見るか。日本にとっては、韓国は中国・ロシア・北朝鮮といった安全保障上の脅威のある国との間の防波堤なのだ。だから、韓国が日米側陣営に属していること自体に日本にとって戦略的意義がある。
 
 さて、今回の失効直前の回避は、水面下で日韓政府が打開策を図ってきた結果である。特に、米国が韓国に対し強力な圧力をかけたことによる。日本に対しても何とかするように打診はしたと思うが韓国比べれば大したことはなかっただろう。なぜなら、GSOMIA破棄は韓国自身にとっての自傷行為であり、日本の輸出管理運用見直しとのリンクは、米国には全く響かなかった(米国の理解は得られなかった)と思うからだ。打開策の内容は以下のとおり。①韓国は、いつでも失効可能との前提付きだが、GSOMIAの終了通告を停止。②韓国は、日本の輸出管理運用見直しのWTO提訴プロセスを停止。③日本は、韓国のWTO提訴プロセスの中止を受け、輸出管理を巡る局長級会合に応じる(対韓輸出運用管理方針を維持)。韓国も米国の本気度にようやく気付きGSOMIA失効回避の面子の立つ名分を探していたところ、それを日本が局長級協議に応じるという形で与えてやったということであるが、それは、日本にとって悪い話ではない。
 
 輸出管理とは関係のない貿易機関であるWTOから本件を引き離し、輸出管理体制の改善を輸出管理当局間で韓国に迫ることができるからだ。なぜならば、日本が運用見直しをしたのは、韓国の輸出管理体制が不十分であること、日韓の輸出管理当局間の信頼関係が壊れていることが原因なのであり、これらの点が改善されれば日本としてその改善に応じた対応を取ることはやぶさかではないのだから。当該協議の中で、韓国の輸出管理についての信頼感を得ることができなければ、日本が措置を変えることはないだろうが、韓国はそれなりの対応をするのではないか。なぜなら、日本の対応を変えたいのは韓国の方だからだ。そして、輸出管理体制の重要性を米国は理解している。要するに、内実において日本は何も譲歩していない。韓国が自傷行為に気づき面子を保ちながら撤回するための「面子」を提供してあげただけだ。(つづく)
 
 
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