国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2019-12-03 15:32

環境問題くらいは対米追随をやめよ

伊藤 洋 山梨大学名誉教授
 アメリカのトランプ大統領は、すでに2017年6月には「地球温暖化対策」のための国際的枠組みである「パリ協定」からの離脱意向を明らかにしていた。しかし、おそらく世界中の誰一人として、いくらなんでもそんな無茶なことをするわけはない、と信じていたのではないだろうか。なにしろ20世紀の全期間を通じて世界に最も環境負荷を加えた国の1つであるアメリカ合衆国の最高責任者がそのような無思慮な行動を本当にとるわけが無いと、世界中の人々(スウェーデンのグレタ・トゥーンベリ氏は違うかもしれないが)が信じていたことであろう。
 
 しかし、「トランプ米政権は(11月)4日、『パリ協定』離脱を国連に正式に通告した。協定発効から3年後との規定に基づき、正式な離脱通告が可能になった最初の日に手続きをした。実際の離脱確定は1年後の20年11月4日になる」(2019/11/05共同)。世界をリードしてきたアメリカ合衆国が掲げてきた「自由・独立・フロンティア」精神は、今日までの約100年間、専制と圧迫に苦しむ世界中の人々にとって憧れであり希望であった。そのアメリカが今やこういう指導者を得て道理を引っ込めて無理を通すようになった。しかも、この「無理」が、なにか高邁な政治目標ではなく、単にドナルド・トランプという一人の政治家の大統領に再選したいという個人的野心からきているのだから、本当に残念でならない。
 
 現在、アメリカではあらゆる政治的課題について国論が二分しており、かつその分裂は今や修復不能なレベルにまで達してきている。環境問題はその課題の一つに過ぎない。パリ協定離脱はこうした傾向に拍車をかけることは間違いない。いずれにせよアメリカ国民は、テーマを問わず提示された極論のどちらかを選択せざるを得ず、米大統領選挙の投票結果もおそらく真っ二つに分かれることだろう。これは、投票総数の「半数プラス1票」の票を集めることで権力を獲得しようとするという「合理主義」といえる。「半数プラス1票」を集めるため、トランプ大統領は極端に合理的なスタンスをとっているのだ。「白か黒か」で単純化された「国益」の追求に走るこうした「アメリカファースト」の傾向は、「自国中心主義」として、いまや各国で模倣され、再生産され、世界を覆っている。本来過激なナショナリズムに対抗すべきアメリカが、こうした現状の元凶となっているのだから、失望せざるを得ない。
 
 日本は戦後久しく、米国を「師」と仰ぎ、いわば米国の顔色をうかがいつつ自国の対外政策を展開してきた側面があったことは否めない。最近では、2018年にカナダで開かれたG7サミットで、プラスティックごみの海洋汚染をサミットの議題とするということで各国首脳がまとまろうとした中で、トランプ大統領がこれに反対すると、残る6首脳のうち安倍首相だけがトランプ大統領に同調したというケースが典型例である。最早、遅きに失したかもしれない地球温暖化対策ではあるが、日本として、せめて環境分野くらいでは独立自尊の精神にもとづき、ことの良し悪しを見定め、筋の通った対外政策を展開していきたいものである。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム