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2019-12-05 18:34

(連載1)「教育困難校」からみた日本の学校教育の課題

葛飾 西山 元教員・フリーライター
 12月2日の『日本経済新聞』の朝刊の教育欄において、教育ジャーナリストの朝比奈なを氏がいわゆる「教育困難校」の現状と、生徒の学力の遅れを回復するための支援の必要性を論じておられた。氏の論点を批判するつもりはないが、「教育困難校」がなぜ発生するのかを掘り下げれば、また違った処方箋も見えてくるのではないかと考え、以下、管見を披露してみたい。
 
 私の教育現場の経験で言うと、教育困難校には高校で使用する教科書の漢字が読めないレベルの生徒も存在する。高校で学習するために必要な基礎学力そのものを身につけていないわけである。彼らの中には明らかに学習やコミュニケーションが困難な生徒もいたが、普通のコミュニケーション能力を持つものもいたし、不登校長期欠席経験者もいた。教科書をまともに読み通せないのだから、授業は苦痛以外の何物でもなかっただろう。問題は、そのような生徒がなぜ高校に入学しているのか、ということである。高校入試があるのに、なぜ1年生の教科書の漢字が分からない生徒や分数の割り算が分からない生徒が合格しているのか。その要因は二つある。一つは制度的な問題。いま一つは経営的な問題である。
 
 前者の制度的な問題については、公立高校入試に見られる。評判の宜しくない高校は受験生に敬遠されるため、競争率が低くなる。成績が低い受験生はとにかく合格できるところを求め、そのような低倍率校に集まることになる。決して偏差値で決められているわけではない。そのような志望動向が固定化してしまっているのだ。倍率1.01倍なら約1名の不合格者が出るはずだが、公立高校の場合、予定されている定員を満たさなければならないため、入学辞退者が出た場合に備え、全員合格にしてしまうことがある。はなから定員割れを起こしていれば、受験者は全教科白紙答案を出さない限り、原則全員合格となる。そして定員を満たすまで二次募集、三次募集を行う。つまり教育困難校では、入学者選抜のための試験を行いながら、全く「選抜」できない状態で全員合格にしているケースが往々にしてあるのである。これは春先に新聞などで公表される実質倍率を見れば容易に確認できる。
 
 いま一つの経営的な問題は、私立高校において見られる。それこそ学校法人の経営を維持するために、学力の下限を設定せず、作文などによって学ぶ意志が確認できれば合格にする。そういうケースが往々にしてある。ここで明確なのは、公立にしろ、私立にしろ、高校側が好ましくないとは思いながらも、意図的に学力困難な受験生を合格させている現実である。(つづく)
 
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