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2007-08-08 10:20

連載投稿(2)日本外交の鍵を握るインド

平林博  日本国際フォーラム参与・元インド大使
 インドは、その経済成長の速さと市場の拡大によって、世界の注目を集めているが、著者は、その戦略的な重要性に注目したい。インドは巨大なユーラシア大陸の南を大きく押さえる。中国の南方進出を牽制し、中央アジアやアフガニスタン、イランなど不安定の「弧」を扼する地政学的位置にある。そのインドが、民主主義国であり、親日国であること、そして、わが国の同盟国である米国との関係を強化している意義は極めて大きい。現在日本政府が推進する「自由と繁栄の弧」の外交では、「弧」の中央に位置し、わが国と共通の価値観を有するインドは、右の外交路線の要と位置づけるべきであろう。

 わが国の生命線であるシー・レーンのうち、マラッカ海峡以西の広大なインド洋をコントロールしているのはインドであり、米国の第七艦隊である。インドの沿岸警備隊や海軍は、マラッカ海峡などに出没する海賊の取り締まりや麻薬・ミサイルなどの違法物資を積んで航行する船舶の臨検で活躍している。かつて海賊に奪われたわが国の船舶をインド洋上で発見し海賊から取り返したのも、北朝鮮からパキスタンなどに向けてミサイル部品などを運んだ北朝鮮の船を臨検し、これを押収したのもインド海軍であった。わが国の海上保安庁の巡視艇とインドの沿岸警備隊は、極めて良好な関係にある。海上自衛隊をはじめわが自衛隊はインドの三軍と良好な関係にある。わが国の遠洋航海を行う練習艦隊、さらにはアラビア海でのアルカイダとの戦いに給油の面で活躍する海上自衛隊の艦船は、すべて常にインドの港で暖かい歓迎を受けてきた。
 
 日印両国は、国際統治システムの改革のための盟友となるべきである。インドは、戦後一貫して途上国のリーダーであったし、現在でもそうである。国連安保理を含めた国連システムに代表される国際政治の枠組みは、金属疲労を起こしつつある。インドとわが国は、ドイツやブラジルと組んで安保理改革の旗手をつとめる。WTO交渉の頓挫と網の目のように広がる地域的な貿易制度や二国間の経済連携協定は、世界貿易システムの改革を要求しているが、インドはカギを握る国のひとつである。世界銀行や国際通貨基金(IMF)も、多くの問題を抱える。早晩、これら国際政治・経済のシステムは、改革を余儀なくされるであろう。わが国とインドは、二人三脚を組んでその改革の尖兵になりうるのである。

 インドは、また、地球規模の問題でもパートナーとなりうる。特に、地球温暖化問題では、重要な地位を占める。1997年12月、当時内閣外政審議室長であった著者は、橋本総理の指示で、京都で開催された気象変動条約締約国第3回会議(COP3)の最後の段階で交渉に関与した。この会議においては、インドは中国とともに、京都議定書においては途上国が温室効果ガス排出について義務的削減の対象外となることを、強硬に主張した。地球温暖化は、産業革命以来、先進国が行ってきた工業化によるものであり、途上国の責任ではないとの論理であった。インド代表団は、途中で引き上げたので、著者は京都駅まで追っかけて行ったことを覚えている。その後、大使としてインドに赴任して環境大臣などに会った際も、同様の消極的な態度であった。しかし、著者がインドを離任する直前の2002年10-11月には、インドは自ら買ってCOP8を主催するまで、意識を変えた。

 その後経済発展を加速しつつあるインドは、中国と同様、環境保全の必要性を認識するに至り、地球温暖化問題に対する態度も変わってきた。急速な経済成長と巨大な人口を持ったインドが、先を行く中国を追って大きな排出国になりつつある現在、両国を、地球温暖化防止の戦いのためのパートナーとすることは、地球規模的に重要である。「ポスト京都議定書」の有効な合意を達成するためには、中国とインドが鍵を握っている。米国が京都議定書をボイコットしたのは、中国とインドという二大排出国が温室効果ガス削減の義務から逃れたからであった。両国のほか途上国を「ポスト京都」の船に乗せるためには、両国が参加することが必須なのである。わが国は、省エネ、再生エネルギー、原子力などあらゆる分野で優れた環境技術や産業を持っており、これをアセットに両国をその方向に動かすことに貢献すべきである。それは、二大排出国の温室効果ガスの排出抑制のみならず、化石燃料の節約にも貢献する。(つづく)
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