国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2020-01-14 13:47

(連載1)フィンランドとバルト三国の微妙な関係

宇田川 敬介 作家・ジャーナリスト
 バルト三国は、いうまでもなくフィンランドの南に南北に並ぶ3つの国であり、北から順に、エストニア、ラトビア、リトアニアとなる。これらの3カ国がソ連から独立して以降、ロシアは、サンクトペテルブルクと飛び地のカリーニングラードとの間の連絡を、バルト三国を回り込むような海路で行っている。つまりバルト三国は、ロシアにとって、黒海と並ぶ重要な欧州への出入り口であるバルト海へのアクセスを妨げるように立地する国々である。ところで、昨年中旬、このバルト三国のひとつ、エストニアの内相ヘルメ氏がフィンランドの新首相マリン氏を中傷し、最終的にエストニアの大統領がフィンランドの大統領に謝罪するという事件がおきた。一国の重要閣僚が隣国の首相を中傷するというのは並大抵のことではない。この事件の背景がなかなか興味深い。
 
 まずバルト三国は3か国ともに、北大西洋条約機構(NATO)・欧州連合(EU)および経済協力開発機構(OECD)の加盟国、通貨もユーロでシェンゲン協定加盟国である。歴史的に、エストニアやラトビアは北ヨーロッパ諸国やドイツと、リトアニアはポーランドとのつながりが深い。エストニア人は、フィン人と近縁の民族で、ラトビア人とリトアニア人はバルト系民族である。つまり、ロシア系の白系ロシア人、またはスラブ人とは違う民族なのである。このように民族的にはロシア人とは異なるにもかかわらず、バルト三国はロシア帝国やソ連などに幾度となく支配されてきた苦難の歴史がある。
 
 他方で、フィンランドは、バルト三国と同様にソ連の強い影響を受けてきたものの、第二次世界大戦でソ連に屈服することなく乗り切ることができたために、バルト三国のようにソ連へ併合されたり、東側諸国のように完全な衛星国化や社会主義化をされたりすることがなく、現在に至っている。とはいえ、戦後はソ連の影響下に置かれることを避けることは出来なかった。ソ連の意向により西側陣営のアメリカによるマーシャル・プランを受けられず、北大西洋条約機構(NATO)にもECにも加盟しなかった。自由民主政体を維持し資本主義経済圏に属するかたわら、外交・国防の面では共産圏に近かったが、ワルシャワ条約機構には加盟しなかった。このフィンランド外交を「ノルディックバランス」といい、この成功があったからこそ現在まで独立を維持出来ている。
 
 しかし、この「ノルディックバランス」そのものがバルト三国からすると「腹立たしい」という感じに映るのである。もちろん現在進行形でフィンランドにバルト三国が怒っているという意味ではなく、フィンランドの歴史が、独立をできなかったバルト三国からすると面白くないということだ。また同時に、「ノルディックバランス」は西側にも東側にも属さない「中途半端なバランス」であり、信用できない、というような印象をバルト三国の国民に与えていたのである。最も悪い言い方で、なおかつ本質は違うものの、語弊を気にせず言えば「北欧版事大主義」の体現者フィンランドは、その存在自体が、ソ連という強大国に運命を左右され犠牲を強いられてきたバルト三国国民にとってまったく愉快ではないといえる。(つづく)
 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム