国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2020-04-17 10:06

(連載1)コロナウイルスによって変化する国際秩序

袴田 茂樹 日本国際フォーラム評議員/青学・新潟県立大学名誉教授
 コロナウイルス事件は、「主権国家とか国境といった概念はやがて過去のものになる」としたリベラリズムの政治思想に壊滅的な打撃を与えた。国家を乗り越えたはずの欧州連合(EU)諸国の多くが、ヒト・モノ・カネの国境を越えた自由往来を約束したシェンゲン協定を無視して、自国を守るために国境閉鎖や国境管理に走ったからである。EUだけでなく、米国もわが国も、部分的にせよ全面的にせよ、国境閉鎖を余儀なくされている。
 
 この傾向は十年以上前からすでに顕著になっていた。移民問題などを契機にして、欧州の国々は新たに国境を設け、あるいは国境を高くした。あの欧州で極右的なナショナリズムやポピュリズムが台頭し、ついにはブレグジットにまで至るとは、EU創設のマーストリヒト条約が署名された1992年には想像も出来なかった。ロシアの「クリミア併合」への対処としてG7諸国は対露制裁を発動し、また米国にトランプ政権が成立して「米国第一」主義を掲げ、米中貿易戦争が激化し、北朝鮮やイランの核問題などが、各国の国家エゴを剥き出しにした。コロナウイルス事件は、このような傾向の総仕上げとも言うべきもので、リベラリズムの国際認識にとどめを刺したとも言える。
 
 1980年代頃から、リベラリズムの国際認識が広がった。グローバル化が進むと、世界政治では、従来の国家間関係が中心だった「近代」は過去のものとなり、国連や国際司法裁判所など国際機関やNGOなどが主役となる、といったリベラルな「ポスト近代」の政治思想である。国際政治でも「グローバル・ガバナンス」といった概念がもてはやされ、国民国家を乗り越えたとする欧州連合(EU)が理想とされた。
 
 そのような政治思想の代表者の一人は、国家秩序(Nations Order)の崩壊について2003年に著書(邦訳『国家の崩壊』2008年)を著した英国の外交官ロバート・クーパーである。彼は、英『プロスペクト』誌から2005年に「世界最高知性100人」に選ばれている。彼は次のように述べている。「国家主権は必ずしも絶対的ではなく、国際関係は道徳に地位を譲って世界は正直になり、国家理性やマキャベリズムは過去のものとなる。国境は重要でなくなり、地政学や勢力均衡は姿を消し、内政と外交の区別はなくなって、国際司法裁判所が画期的な役割を果たすようになり、外交もプロではなく一般の人が参加する。国家は役割を終えた。」このクーパーは、「今なお国民国家という時代遅れの概念を引っ張り出して、洗練された仕組みに取って代わらせことに熱中している人々がいることは興味深い」との皮肉も述べている。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム