新型コロナウイルス感染拡大が世界全体を混乱に陥れたまま、2020年も半分が経過しようとしている。感染拡大の第二、第三の波が発生する可能性は否定できないが、ひとまず国際世論は、ポスト・コロナの「ニュー・ノーマル」への中・長期的な道すじを探り始めているかのようである。それにしても今回のパンデミックで、人々の生活が大きく変化し、尋常ならざる不便を強いられたことで、現代文明の足元がすくわれたのは間違いない。特に経済力が高く、医療体制が比較的整備されているとされる欧米諸国で感染が蔓延し、死者が続出している事実には、21世紀の今日においても人類が感染症に対しあまりにも脆弱であることを改めて思い知らされた。
ところで冷戦終焉以降、世界の安全保障環境においては、大国間の全面戦争の可能性が低減した一方で、環境問題や国際犯罪(テロ、海賊、違法取引等)、地域紛争、難民問題などを含む破綻国家の問題等、非国家・準国家主体によるさまざまな脅威が浮上することとなった。安全保障学上、国家間の軍事的対立が「伝統的」な関心であったことから、こうした非国家主体に起因する諸問題は、便宜上、「非伝統的」安全保障と呼ばれている。今回の新型コロナ禍のようなパンデミックもそうした「非伝統的」安全保障問題の一つに数えられよう。
それにしても、グローバル化時代において、各種の非伝統的安全保障問題は相互に複雑な連関性を示している。英タイム誌による2019年版「最も影響力のある100人」特集では、環境活動家の少女が選出されたことで話題を呼んだが、その少女への関心も、年明け以降あっという間に新型ウイルス流行に取って代わられてしまった。そうした中、今回、感染症対策として世界中で経済活動が著しく制限されたことから、各地で環境改善が次々に発生していることは、そうした連関性の一例である。
その他にも、国連薬物・犯罪事務所(UNODC)の調査報告書『COVID-19と違法薬物サプライチェーン:生産・密輸から使用まで』(電子版、2020年5月7日発行)によれば、各国が新型ウイルス対策の一環で自己隔離政策に伴う治安対策や国境管理を強化したことにより、麻薬密輸の事案が急激に減少したり、摘発で成果があがったりしているという。環境問題も麻薬問題も、国際的問題として知られて久しく、根本的な解決はいまだ見られていないが、世界的な感染症流行への対処の副産物として、それら問題に対して思わぬ成果があがる場合があるということが、今回の新型コロナウイルス対策において示されたように思う。(つづく)
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