国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2020-11-20 17:16

大阪都構想に示した大阪市民の叡智

伊藤 洋 山梨大学名誉教授
 およそ真っ当な政治家であれば一度民意を訊いた政治的イシューについて再度住民の意思を尋ねることはしないであろう。それなのに莫大な時間と予算を浪費し、かつ住民同士の軋轢を増す愚策を重ね、しかも全く同じ結果を招いた。言わずもがなの大阪都構想、厳密には大阪市を廃止して四つの特別区に再編するというものだったが、11月1日に行われた住民投票の結果、反対が賛成を2万票近く引きはなして勝利し、大阪市はかろうじて生き残ることとなった。太閤殿下以来の浪速の大阪が辛うじて継続したこと、まずは大阪市民の叡智をたかく高く評価したいと思う。
 
 それにしてもかくも無益な争論をやり続けた大阪維新の会は、大阪市長や大阪府知事、それに外から彼らをたきつけた政治家や評論家等々これに政治的に関わった人々はそれぞれの立ち位置で居ずまいを厳に正すべきである。そもそも大阪がその政治的・経済的地位を減じていったのは、東京に徐々に栄養を吸い取られるように経済的・政治的地位を喪失していったためである。その最たるものが東海道新幹線だ。東京と大阪が2時間半で結ばれることで、上りに乗る乗客の数が下りに乗るそれよりほんの数人多かったばかりに、これが開通以来半世紀余を経る中で圧倒的な差異を現出させてしまったのであると考えている。その上り列車の車中には、時折大阪生まれ大阪育ちの大企業本社が大阪から東京にそっと移動し、東京大阪間の格差を乗数的に拡大させたのである。にも拘らず、大阪に残った政治・経済界の指導者たちは今またJR東海がすすめるリニア中央新幹線の大阪までの早期着工を一生懸命に促している。ますます、東京のみならず名古屋・横浜に対してまで不利な競争に巻き込まれることであろうと、筆者は同情しているのだがどうであろう。
 
 ところで、この度の再度の住民投票では改めて前回反対を決め込んでいた公明党が賛成に回った。にも拘らずそれでも結果は変わらなかった。公明党が参加した理由は、大阪都構想に反対すると維新の会が公明党候補への対抗馬を擁立すると圧迫したことへの回答であったと聞く。かくて公明党もまた敗者に連座し、その見識が疑われなければならないことになった。
 
 これを機に大阪市と大阪府は、夢洲に計画中のインモラルのIR構想の断念、またもはや柳の下に不在のドジョウを探すような時代遅れの万博開催の再検討など深慮と遠謀を期待したいものである。大阪府・市がこの住民投票結果を契機にして、もう一度東京一極集中を打破する日本第二の指導的都市として立ち直って欲しいものである。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム