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2021-08-04 18:17

(連載1)国際舞台での日本の首相

河村 洋 外交評論家
 本年6月にはG7カービスベイから米露首脳会談まで、大きな外交行事が目白押しであった。しかしG7で各国首脳と非公式のやり取りの場での菅義偉首相の振る舞いは拙く自信がないように見えたので、日本の国民やメディアからは不安の声も挙がった。菅氏は外交での知識と経験が充分とは言えず、英語も流暢とは言えないので、それが国際舞台での日本の政治的存在感の高揚には支障をきたすとの懸念が抱かれている。しかし実際には英語力でも外交経験でもなく、G7で討議されたグローバルな課題一つ一つでの問題意識の共有の方が重要ではないかと私は考えている。
 
 日本のメディアはG7史上で初めて、コミュニケで台湾海峡への言及があったと歓喜している。これは日本が長年にわたって西側同盟諸国に中国への警戒を怠らぬよう説得してきたことが、成果となって表れたと言える。しかしこの問題は共同宣言の第60項に数行ほど記されたのに対し、環境、デジタル・エコノミー、第三世界の開発とエンパワーメント、人権、中国の一帯一路に対抗するインフラ建設といった他のグローバル問題には、もっと多くの語数が費やされている。G7で同席する大西洋諸国の指導者達と比較して、日本の政治家はそれら議題の必ずしも全てに通常業務から馴染んでいるわけではない。例えば第三世界でもシリア、イラク、アフガニスタン、そしてエチオピア対ティグレ紛争などの中東やアフリカに関する問題となると、永田町の政治家達には相対的に馴染みが薄くなってしまう。
 
 G7のすぐ後にジョー・バイデン米大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領の会談を控えていたこともあって、ロシアも重要な議題であった。しかしクリミアを除いて、菅氏が人権や選挙介入といった問題で各国首脳と問題意識を共有できたのかどうかは疑わしい。それはただ、プーチン氏が日本の選挙には介入しなかったという理由だけではない。戦後の日本は諸外国との経済関係を優先し、吉田ドクトリンの下で第三世界の独裁者を受容してきた。ロシアもまた例外ではない。人権に関してさらに顕著な問題を挙げれば、菅氏はウイグル抑圧への強硬な非難によって、日中関係が決定的な影響を及ぼす事態を懸念していた。
 
 そうした紆余曲折はあるが、誰が日本の首相であれ正式な会談でのグローバルな諸課題の議論では、官僚の助力でさほどの困難もなく乗り切れるだろう。しかし首相自身が諸外国の首脳と問題意識を共有していなければ、どれほど英語ないし他の外国語に堪能であっても非公式の意見のやり取りは難しいだろう。本当に重要になるのは思考様式である。ジャパン・ファーストで視野の狭い政治家が国際会議に参加しても稚拙な振る舞いとなるばかりで、国際社会の信頼は得られないだろう。(つづく)
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