国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2021-10-29 18:04

岸田首相は国民を豊かにする「大成長戦略」を訴えよ

加藤 成一 外交評論家(元弁護士)
 いよいよ10月31日の総選挙の投開票日が迫ってきた。マスコミ各社の終盤の情勢調査によると、自民党の単独過半数確保の有無が焦点のようである。10月24日の参議院静岡選挙区補欠選挙での自民党候補敗北の影響も注目される。さらに、全般的には、「閣外協力」により立憲民主党と共産党の野党選挙共闘が進展し、200選挙区を超える小選挙区で立憲民主党を中心とする野党候補の大規模な一本化が行われたのは今回の総選挙の特徴であり、その影響も注目されよう。いずれにしても予断を許さぬ終盤の選挙情勢である。このように、選挙情勢が予断を許さないのは、一つには、自民党総裁である温厚な岸田首相の「攻撃力」と「迫力」の弱さを指摘できよう。いうまでもなく、選挙は食うか食われるかの戦いであり真剣勝負である。戦いである以上は、相手陣営の弱点を徹底的に攻撃するのが勝利への近道である。まさに「攻撃は最大の防御」である。ところが、テレビの討論会等を見ると、岸田首相は相手陣営の弱点をほとんど攻撃しない。相手陣営の弱点の最たるものは、立憲民主党と共産党の「閣外協力」である。この点については、拙稿「ついに共産党と閣外協力する立憲民主党:社会主義政権への第一歩」(10月4日付、e-論壇「百家争鳴」)及び「立憲・共産の容共政権の是非も総選挙の重要争点だ」(10月22日付、e-論壇「百花斉放」)をご高覧いただきたい。岸田首相としては、テレビの討論会等においても、「容共政権」の是非を争点化して、国民に「自由主義か共産主義か」の体制選択を迫るべきなのである。これを全く行わないことは、結果的に立憲民主党と共産党を助けていると言うほかない。
 
 その代わり、岸田首相は、格差是正を目指して、「新しい資本主義」や「成長と分配の好循環」を主張するが、いずれの主張も今後の日本経済成長発展戦略としては迫力に欠ける。このため、楽天の三木谷社長からは、「新社会主義であり金融市場を崩壊させる」などと厳しく指摘されたのである。指摘の通り、日経平均株価は「岸田ショック」で一時2000円以上も急落した。そのため、岸田首相は、急遽「金融所得課税強化」の主張の事実上の撤回を余儀なくされたのである。
 
 政治は常に国民に「夢と希望」を与えなければならない。中国・習近平国家主席の「中華民族の偉大な復興」もそうである。これは、国民の愛国心に訴え圧倒的支持を得て、中国共産党政権の安定と継続を図るためのものでもある。その点、自民党は他の野党とは異なり、国民に夢と希望を与え、戦後長きにわたり、日米同盟による安全保障体制を確立して平和を維持し、戦後日本の経済発展を成し遂げた実績のある政党である。その自民党の安倍政権が8年近く続き、その間6回の国政選挙で圧勝したのも、「アベノミクス」や「一億総活躍社会」などのスローガンを掲げ、国民に夢と希望を与えてきたからである。それとともに、岸田首相とは異なり、安倍前首相は、遠慮することなく、ことあるごとに、「3年3か月の悪夢の民主党政権」と旧民主党政権を厳しく批判し攻撃した。この攻撃的で迫力のあるイメージ戦略も、長期政権維持に有効であったと言えよう
 
 この20年間の日本の国内総生産(GDP)の成長率は極めて低い。中国や米国の経済成長に比べてその差は開く一方である。そのため、日本社会全体に生き生きとした活力が失われている。したがって、岸田新政権においては、速やかに国民を豊かにし夢と希望を与えることができるスケールの大きな「大成長戦略」が策定され、国民に提示されるべきである。情報通信、人工知能、ロボット、科学技術、工業、農業、運輸、貿易、化学、流通、教育、研究、医薬、航空、宇宙、観光、サービス産業など、日本のありとあらゆる産業分野のIT化、デジタル化、技術革新、雇用改革、効率化の断行といった横断的な成長戦略には、多くの人間や組織が迷いなく動くためのビジョンが求められるからだ。もちろん、その戦略には、これにより生産性革命が成し遂げられ、飛躍的な経済成長とパイの拡大により歳入が拡大し国家財政が強化されると国民が信じるだけの説得力が求められる。「ベーシックインカム」など、政府による十分な分配も社会保障も持続可能になるという説得力があれば、定着した将来不安は緩和され企業や家計の活動は好循環するのではないか。岸田首相は、「大成長戦略」を早急に策定し、力強く国民に訴えるべきである。岸田新首相には、日本国民に対して、スケールの大きな「夢」と「希望」を与えていただきたい。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム