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2021-11-29 17:26

(連載1)それでも「核の先制不使用」は追求されるべきである

桜井 宏之 軍事問題研究会代表
1.はじめに
 「バイデン政権は核の『先制不使⽤』宣⾔を出すべきではない」を興味深く拝読致しました。「核の先制不使用」(以下「先制不使用」)に対する理論的な反対理由が過不足無く説明されており、大変参考になりました。それでも筆者は、なお先制不使用は追求されるべきであると考えますので、その理由を述べたいと思います。
 
2.用語の定義
 まずは本稿における用語の定義を明確にしておきます。いずれも「核の先制不使用に関する議論の経緯と課題」『立法と調査』(参議院常任委員会調査室・特別調査室)第309号(2010年10月1日)での定義を借用致します。 なお以下で説明されている通り、「先制」使用と「先行」使用は厳密には区別されるべきですが、本稿での先制使用とは、核兵器を用いて戦端を開くことではなく、①の定義と致します。
 また①と④も明確に区別されます。大雑把に区別すると、①は戦術レベル、④は戦略レベルでの核の使用におけるものです。本稿では④は扱いません。
① 先制使用(first use)
 核兵器以外の手段で武力攻撃を加えてきた敵対先制使用国に対し、先んじて核兵器を使用すること。
② 先制不使用(no first use)
 核兵器を相手より先に使用することはないが、相手の核使用に対しては報復使用の選択肢を留保するというものである。
③ 先制使用と先行使用
 冷戦時代にあっては、核の先制使用とは、通常、武力紛争中、敵対国よりも先に核兵器を使用すること、すなわち「先行」使用を指していた。
核兵器を用いて戦端を開くことも語義的には核兵器の先制使用の範疇に入るが、こうした核兵器を用いた先制核攻撃と武力紛争中の核の先制使用は区別されなければならない。しかしながら往々にして、こうした区別をせずに議論される傾向がある。
④ first strike(第一撃)
 先制核攻撃のもう一つの形態で、先制核攻撃で敵対国の戦略核戦力に報復能力が残存しないほどの壊滅的損害を与える核攻撃。「武装解除的ファースト・ストライク」(disarming first strike)と称されることもある。
 
3.核抑止はあくまで「仮説」である
 核抑止を巡る議論において、注意すべきなのが、抑止が機能しているか否かは「仮説」に過ぎないという点です。先制不使用の反対論者は、えてして核抑止を「証明不要の公理」のごとく扱いがちですが、実際は「事実によって証明も反証もされない命題」(土山實男「安全保障の国際政治学―焦りと傲り」(有斐閣)179頁)なのです。つまり核抑止が機能しているのか、機能していないのかは、その時点では証明できません。抑止の失敗があって初めて、それまで抑止が機能していたことが証明されるのです。先制不使用に賛成・反対のいずれの立場にせよ、議論の前提として、この点については共通の理解にしたいと思います。(つづく)
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