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2022-03-28 10:44

北方領土交渉は「焦らず、慌てず、諦めず」

松井 啓 初代駐カザフスタン大使
  ロシアは3月21日に北方領土交渉停止を通告してきたのに続き、25日には3千人の規模の軍事演習を北方領土で開始した。ウクライナ情勢で「非友好的」になった日本に対する牽制の一環とみなすことができよう。プーチン大統領の真意を探ってみる。レニングラードの痩せた鼻柱の強いストリートチルドレンであったプーチンは成人して、KGB(ソ連の諜報機関)に志願し東独に派遣された。若い頃は東独ドレスデンで諜報活動を行っていたが、ソ連崩壊時にKGBのビルが撤退を叫ぶ大衆に囲まれ、その後レニングラードに戻った時にソ連崩壊を目の当たりにし、2度にわたる民主化運動の大衆の力がトラウマとして残り、大衆に対する情報操作の重要性を認識し実践してきている。プーチンはその後冷酷にチェチェン弾圧で手腕を発揮し、ロシア大統領になったエリツィンに認められその後継者になった。
 プーチンはソ連の崩壊は「20世紀最大の悲劇」ととらえ、ロシアの版図をピョートル大帝の時代に戻すことを夢見ている。自分の耳に心地良いことしか聞かない「裸の王様」となったプーチンは情報の偏りにより客観的な判断ができなくなってきている。プーチンは北京オリンピック開会式に出席した際に、習近平主席から北京オリンピック(2月4日から20日)終了以降からパラリンピック(3月4日から13日)前までにロシア軍のウクライナ侵攻を開始し短期間に決着をつけるとの了解を取り付けていた可能性がある。その後のウクライナ侵攻の膠着状態は習近平にとっては台湾統合を進めるための良い「学習材料」である。
 「人たらし」の異名を取るプーチンは面会相手の素性を徹底的に調べ上げ、相手の心の琴線に触れるような発言をして好印象を与えるのが巧みである。日本人は種々贈呈物を工夫し、相互にファーストネームで呼び合うことで信頼関係が築けたとナイーブに安心する。プーチンは現段階では一旦手に入れた領土は一寸なりとも放棄するつもりはない。北方領土は地政学的に益々重要になってきているので、よほど大きな見返りがない限り手放すつもりは更々ない。日本がプーチンの手玉に取られてきたことに覚醒する時である。
 ロシアは2020年7月の領土の割譲を禁止する憲法改正、日本海周辺での中国との合同軍事演習、ロシア戦艦の対馬海峡通過等の日本周辺航行、3月9日には北方領土に進出する第三国企業を優遇する法律を成立させるなど、種々手段を講じて「非友好的な」日本に対する敵対圧力を高めてきており、今回の交渉停止と軍事演習に至った。両国間で合意した日ソ共同宣言(1956年)が消えるわけではなく、北方領土も厳然として存在する。平和条約がなくても現在まで両国関係は維持されてきている。日本はウクライナ情勢に関しては米欧との共通の基盤に立っていることを鮮明にし、機会があれば、ロシアに不法占拠されている北方領土の存在を広く世界に知らせるべきであろう。北方領土交渉は「焦らず慌てず諦めず」、ウクライナ情勢収束後の機会到来まで辛抱強く待つべきである。他方、多くの日本人はロシアの文学、音楽、美術、舞台芸術を愛好してきており、また多くのロシア人が日本の文化やスポーツに深い関心を抱いている。現ロシア政権の動向にかかわらず、国民レベルの相互理解深化のための交流は引き続き促進していくべきである。
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