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2022-03-30 13:01

ウクライナ戦争の停戦交渉についての現時点での所感

葛飾 西山 元教員・フリーライター
 現在、ウクライナとロシアで停戦に向けた交渉のすり合わせが行われている。私は、局外者としての立場であることを痛感しながら敢えて言うと、個人的には現状に強い疑念を感じざるを得ない。現在の状況は、私が2月25日の「ウクライナ戦争が『民主主義』国家・日本に突き付ける刃」で予感した通りに推移している。私の見通し通りに、戦局は全土に拡大し、東部の2つの自称「自治共和国」はロシアへの帰属を表明しだした。また私が3月4日の「ウクライナ戦争に伴う民主主義の『全般的危機』」で予感したことをなぞるように、ロシアはウクライナ避難民をロシアへ移送(連行)するという暴挙に出た。それにあきたらずさらにシベリアに移住させる方針との情報がある。まさにウクライナ人のシベリア送りである。
 
 ゼレンスキー大統領からは2つの自称「自治共和国」の特別な地位の承認とウクライナの中立国化が条件提示として示されているようだが、果たしてそれで済むのであろうか。見通しはプーチンの視点に立てばすぐに分かるはずである。ロシア側としては
1)占領地域からは撤兵しない。…北方四島を手放さないように、一度軍事占領した地域を手放すなどの愚を犯すはずがない。
2)2つの自治共和国だけでなく、占領地域でも帰属についての住民投票を実施する。…州単位でロシア領化する可能性がある。
3)中立国化する場合の安全保障はロシアが担う。つまり日本国内に米軍基地があるようにウクライナ国内にロシア軍基地を配置する。
4)中立国化する場合の安全保障ではアメリカやイギリスの参入は認めない。
ここらあたりは当然であろう。これでウクライナはロシアの管理下に入り、属領化することになる。もしウクライナが中立国の安全保障にアメリカやイギリスの参入を取り下げないのであれば、支配地域を拡大し、少なくともドニエプル川以東を包含するように占領地域を拡大し、上述の手順でロシア領化するであろう。そしてウクライナ人のロシア内地への「移住」を促進し、逆に東部の「復興」の名目で戦前の日本が行った満蒙開拓団よろしく、ロシア人のウクライナ東部への移住を促進させるであろう。
 
 ロシアは東部2州の解放に主目的を置くとは言ったが、「戦域を縮小する」とは一度も言っていない。そもそも全土への戦火拡大は2つの自称「自治共和国」からの出動要請を受けた自称「自衛」の作戦の延長なのである。東部の解放のために必要ならばいくらでも戦域を拡大する可能性は今でも十分に担保されている。単に首都を落とせなくともロシアの軍事作戦は大成功ではないが成功であることを確認した表現に過ぎない。
 
 私の見立てを「素人」と嗤う方もおられよう。しかし専門家の方々はロシアによる戦域全土拡大を見通せなかった。また私の早期の見立て通りに進んでいる面があることもまた事実である。ウクライナ出身の政治学者のグレンコ・アンドリー氏は「停戦の合意」は「停戦の延期」でしかないとツイートしたようだが、正に同感である。ただ、NATOはフィンランドの加盟は検討してもウクライナの加盟については認める姿勢はない。NATOから固く門を閉ざされてしまった以上、ゼレンスキー大統領も停戦以外に打つ手はないのかもしれない。
 
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