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2022-05-17 18:12

編集権侵害問題、うやむやにしてはならぬ

伊藤 洋 山梨大学名誉教授
 朝日新聞社は4月7日、週刊ダイヤモンドが安倍晋三元首相に行ったインタビューの記事を公表前に見せるよう同誌に要求したとして、編集委員の峯村健司記者(47)を停職1カ月の懲戒処分とすると発表した。(同記者は、3月20日に1ヶ月後の退職を公表し、4月20日に退職している。現在は、青山学院大学客員教授、北海道大学公共政策学研究センター上席研究員等。)同社によると、ダイヤモンド編集部は3月9日に外交や安全保障をテーマに安倍氏へインタビューを実施。峯村記者は10日夜、インタビューを行った副編集長に連絡し『安倍(元)総理がインタビューの中身を心配されている。私が全ての顧問を引き受けている』と発言した。さらに『ゴーサインは私が決める』などと話し、公表前の誌面を見せるよう要求したが断られた。記事は3月26日号(22日発売)に掲載された」(2022/04/07産経新聞)
 朝日新聞は――同紙だけではない日本のすべての新聞がそうだったのだが――先の大戦中大いに筆をなめ、軍部にすり寄り権力の走狗となって国論を誤らせた歴史をもつ。中でも朝日は特に戦争協力に情熱を傾けた。その反省から戦後は権力との間にしっかりと批判の垣根を構築して、「是々非々」を殊の外に分別してきたと解されている。それが、あろうことか右に振り切っていると言っても過言ではない新聞にかくも批判記事を書かれるようでは仕方ない。上記引用の産経紙はおおいに溜飲を下げながらこの記事を書いたことであろう。筆法鋭く被害者ダイアモンド誌の編集長の言として次のように聞き取っている。「ダイヤモンド編集部が行った安倍晋三氏へのインタビュー記事について、朝日新聞の編集委員から編集権の侵害行為があったのは事実であり、私たちはその介入を明確に拒否しました。メディアは常に権力との距離感を強く意識しなければならず、中立性を欠いた介入があったことは残念でなりません」(2022/04/07産経新聞)――ダイアモンド社のこの言やヨシである。
 国家最高権力者の「顧問」を務めると自称した人物がこの間書いてきた記事が少なからず朝日新聞紙面には掲載されていたはずである。今や日本の新聞、少々乱暴に言わせていただけば中央紙と呼ばれる紙誌の批判力の劣化は目を覆うばかりだ。そういう中にあって朝日新聞が最高権力者の顧問を自称するような人物を湛えていたというのは読者への大いなる裏切りと言うしかない。
 健全な社会における新聞の堕落は国家や社会の堕落に通ずるということはいま連日メディアを賑わすロシアの政権とそれを讃える国民とを見れば一目瞭然である。朝日新聞社は同記者が書いたすべての記事について再検証し、訂正すべきものは訂正してその結果を読者に示して要すれば謝罪すべきである。朝日新聞社の記事の質を疑われるような事態を前に決してうやむやにしてはならない。
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