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2022-07-27 18:14

(連載1)「安倍国葬反対」の仮処分申請は認められうるか

加藤 成一 外交評論家(元弁護士)
 7月8日奈良県での参院選遊説中に銃撃され死去した安倍晋三元首相の「国葬」を行うとの政府方針に対し、市民団体が7月21日、岸田文雄首相を相手取り閣議決定や予算執行の差し止めを求める仮処分を東京地裁に申し立てた。申し立てによれば、「国葬の法的根拠がなく、閣議決定のみによる予算執行は違法である。儀式への強制参加は思想・良心の自由を定めた憲法19条にも違反する。」(7月21日時事ドットコムニュース)などと主張している。
 
 法律上、仮処分が認められるためには、(1)当事者適格(2)被保全権利(3)保全の必要性の三要件が必要である。本件の仮処分申請は「仮の地位を定める仮処分申請」である(民事保全法23条2項)。
(1) 当事者適格とは、仮処分申請をするための法律上の地位であり、具体的には当該仮処分申請について、申請人らが、法律上の具体的な「権利関係」(利害関係)を有することが必要である。本件は当事者適格にも疑問がある。なぜなら、申請人らは、「安倍国葬」の有無・内容・影響等について法律上の具体的な「権利関係」(利害関係)を有するかにつき疑問があるからである。ちなみに、市民団体による各地の裁判所での「安保法制違憲訴訟」は、法律上の具体的な「権利関係」(利害関係)が乏しい等の理由でいずれも敗訴している。
 
(2) 被保全権利とは、仮処分によって法律上保護されるべき利益や権利のことである。まず、「国葬」に法的根拠がないとの主張は理由が乏しい。なぜなら、戦前の「国葬令」は戦後廃止されたが、内閣府設置法には内閣府の所掌事項として「国の儀式」が含まれているから、閣議決定による「国葬」には法的根拠がある。「吉田茂国葬」の前例もある。次に、閣議決定のみによる予算執行は違法との主張も、上記の通り、内閣府設置法に「国の儀式」が含まれているから、違法とはいえない。さらに、「国葬」が国民の思想・良心の自由を侵害し憲法19条違反であるとの主張も理由が乏しい。なぜなら、「国葬」は国民に儀式への参加を一律に強制するものではなく不参加の自由もあり、不参加により国民に思想上の不利益を与えるものではないからである。
 
 また、「国葬」が全額国費(国の予算)で行われることについても、上記「国の儀式」は国費を前提とするから、その額が適正妥当である限り、違法とは言えない。市民団体の主張は、要するに、自分たちの思想良心に反する国の予算執行は思想良心の自由侵害である、と解される。しかし、例えば、自衛隊への予算執行が法律上自衛隊違憲反対を主張する人たちの思想良心の自由侵害にはならないのと同様に、「安倍国葬」への予算執行も法律上「国葬反対」の人たちの思想良心の自由侵害にはならないと解すべきである。(つづく)
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