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2022-04-03 08:35

ウクライナ侵略と情報セキュリティ

大矢 実 日本国際フォーラム研究員
 今回のロシアによるウクライナ侵略では、火力による侵略行為に先駆けて熾烈なサイバー戦争が両国の間で行われていたことが明らかになっている。そしてそれは現在も続いており、恐らくもし両国が平和的な妥協点を見出し和平文書に署名したあとですら続くであろう。しかし、サイバー戦争というのは、このような伝統的な軍事衝突に付随して起こるものではない。

 例えば、2015年、ウクライナの電力網が「BlackEnergy」によるサイバー攻撃で電力供給をすることができなくなってしまい、約8万人のウクライナ人が停電に悩まされるという事件が起きた。「BlackEnergy」は、情報の収集や破壊を目的としたDDoS攻撃によく利用されるトロイの木馬型のマルウェアだ。専門的な調査によってそれらの断続的な攻撃に関わっていたのはロシアだと明らかにされてはいるが、ロシア政府はその事実を認めることはなく、当然に賠償や補償は行われなかった。

 ここで重要なことは、ロシアによるサイバー攻撃は、この例示した電力会社への攻撃だけではなく、政府の基盤システムから一般企業の産業制御システムまで手広く、しかも平時から継続的に行われてきたということである。そして、このような攻撃はウクライナ戦争の兆しとして行われたことで注目はされたが、これは大規模紛争が起きる兆候としてのみ起こるものではなく、平時から世界中で行われる民間人・民間企業が前線で身構える必要がある戦いということである。例えば、切迫した脅威にさらされてはいないインドでも、2020年には1万2千件弱のセキュリティインシデントが発生しインフラ関連を中心に銀行や通信、海運業など多様な産業で被害が生じ企業や家計にも影響を与えた。

 政府共通プラットフォームやデジタル庁の取り組みにも現れているが、日本には安全保障と、IT産業や情報セキュリティの関係性をあいまいにしがちな傾向があり、政府だけではなく、企業や国民一人一人の意識や具体的な施策も必ずしも優れているとはいえない。ウクライナはロシアによるクリミア半島の強制編入を機会に一気に挙国的なサイバー戦争能力の強化を推し進めたが、日本はその経緯をしっかり参考にすべきだ。
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