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2022-09-14 20:49

(連載1)日本の「ユーラシア外交」:拡がれ世界の友好国

高畑 洋平 日本国際フォーラム上席研究員
 「私は、日本外交は、冷戦後の国際関係の大きな転換の中で、こうしたアジア太平洋地域へ向けた外交の地平を大きく前進させなければならない、そして、新しい視点を創造するべき重要な時期に来ていると思うのであります。この視点を私は名付けて『ユーラシア外交』と表現したい。」

 1997年7月24日、橋本龍太郎首相(当時)が、いわゆる日本の「ユーラシア外交」なるものを表明してから、四半世紀を迎えた。日本では、この演説をもって、日本の「ユーラシア外交」の幕開けと理解された。冷戦の終焉によって、日本外交の自由度は飛躍的に高まり、従来の「受動的」外交アプローチから「主体的」外交アプローチへの転換を内外に示すきっかけとなった。また、日本では、いわゆる「自由」「繁栄」「価値」「地球儀俯瞰」などといった戦略概念を強く打ち出すことに成功し、国際社会に対して、日本が今何を考え、今後、何を成し遂げたいのか、従来よりも明確になったことは疑いない。

 他方、近年、中国やロシアなどによる軍事的脅威の高まりとともに、米国の存在感は明らかに影を潜めつつあるのが現状ではないか。こうした状況のなか、日本外交は今、従来の「日米」「日中」「日露」という視点に加えて、「多国間外交」ともいうべきアプローチの重要性が改めて問われているのではないか。

 そこで本稿では、日本の多角的な視点を有している(いた)というべき戦略概念のうち、およそユーラシア大陸に関連する、「対シルクロード地域外交」、「自由と繁栄の弧」「地球儀を俯瞰する外交」および「自由で開かれたインド太平洋」の4つの戦略概念をとりあげ、日本のユーラシア外交の歩みを振り返るとともに、今日の日本外交における「ユーラシア外交」を選択する必要性についても提起したい。

 まず、「対シルクロード地域外交」については、日本と中央アジア地域の関係構築に向けて、冒頭の橋本演説で「対シルクロード地域外交」が披露されて以降、日本と中央アジアをつなぐ新たな地域概念・共生関係を構築している。その具体的な3つの柱として、①信頼と相互理解の強化のための政治対話、②繁栄に協力するための経済協力や資源開発協力、③核不拡散や民主化、安定化による平和のための協力、が掲げられている。

 2004年には、新たな政府ベースの地域協力促進の枠組みとして、「中央アジア+日本」対話も立ち上げられた。本年は日本と中央アジア・コーカサス諸国との外交関係樹立30周年であり、今後、双方の交流は一層拡大することが予想される。

 その後、2006年11月30日には、麻生太郎外相(当時)によって「『自由と繁栄の弧』をつくる―拡がる日本外交の地平」と題する政策演説が世に示された。特筆すべきは、その地理的範囲の広さで、北欧諸国からはじまり、バルト諸国、中・東欧、中央アジア・コーカサス、中東、インド亜大陸、また東南アジアを通って北東アジアにまで及び、さらに豪州やニュージーランドも含まれた。そして、この地域において、普遍的価値を基礎とする豊かで安定した地域にするという斬新なアイディアであった。ただし、この構想は「麻生ドクトリン」の側面が強く、用語としては次第に姿を消していく。その後登場するのが「地球儀を俯瞰する外交」である。(つづく)
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